理学療法士・作業療法士に限ったことではありませんが,社会人として仕事上のコミュニケーションを取るうえは,雑談力というのは非常に重要です.特にわれわれ理学療法士・作業療法士の仕事というのは一定の時間をクライアントとともにするわけですので,この中でクライアントとコミュニケーションをとることのできる時間は非常に長いわけです.以前にもご紹介したようにわれわれれ理学療法士・作業療法士のクライアントとの関わり方というのは他の医療職と比較しても少し特殊なところがあります.今回は仕事をするうえで欠かすことができない雑談力について考えてみたいと思います.
目次
雑談力がなぜ重要か?
われわれ理学療法士・作業療法士は日々の仕事の中で,多くのクライアントの方と時をともにします.職場の特性によっては毎日,初対面の方と多く接するという方も少なくないと思います.初対面の方と接する上で非常に重要なのが,この雑談力です.雑談というのは年齢や性別を細かく限定することなく誰とでもおおよその会話が成立するような話ですが,雑談をする場合にはわれわれもいろいろな情報を持っておく必要があります.普段から専門領域の医療・リハビリテーションといった情報に限らず,広く社会のことを知っておくことが重要なわけです.雑談というのは話す際の緊張をほほぐし,その後のコミュニケーションを円滑に進めてくれます.
どんな雑談ネタがあるの?
天候
一番,手っ取り早いのは天候のことを話してみることです.どんな高齢な方であれ,女性であれ男性であれ,言語が通じれば天候のネタでコミュニケーションを図ることが難しい人は少ないでしょう(言語でのコミュニケーション障害がある方は別ですが…).特にわれわれ理学療法士・作業療法士が対象とすることの多い運動器疾患を有する方の中には,気圧の変化によって通常よりも疼痛を強く感じている方も多く,中枢神経疾患の方でも寒くなるといつもよりもしびれ感を強く感じている方が少なくありません.今日は暑いですねとか,台風が来てますが大丈夫ですかねとか,週末は雨見たいですねとかこういった天候のネタだけで,簡単にコミュニケーションを図ることができます.
ニュース
高齢者というのはテレビを見ている時間が長いので,最近のニュースにおける時事ネタというのも欠かすことができません.政治関係の話や,宗教関係の話というのは,場合によっては信頼関係を崩す可能性もありますので,私自身はなるべく控えるようにしておりますが,最近は健康関連の番組やニュースも多いので,クライアントの病状に合わせて,昨日のNHKの番組で健康関連の話をやってましたよとか,そんな話の導入の仕方でも良いと思います.男性の方であれば,相撲や野球のネタというのは鉄板です.特に今の高齢者世代というのは今の若い世代に比較して,相撲・野球の熱狂的なファンの方が多いので,これだけで長時間お話していただけることも多いです.毎日の試合で一喜一憂されていたりはしますが,喜びや悔しさを共有してあげれば,信頼関係を築きやすくなります.
仕事の話
クライアントの方によくお聞きするのはお仕事の話です.現在もお仕事をされている方であれば,復職に向けた情報収集という意味にもなりますので,お仕事の話を聞いておくことは非常に重要です.特に男性の場合には,すでに退職されている方であっても,お仕事の話を聞くといきいきとお話されることが多いです.
こんな話はNG,基本はクライアントの話を傾聴
私自身が避けるようにしている雑談ネタとしては,宗教・信仰,学歴,景気,政治,自分のプライベートすぎる話でしょうか.恥ずかしい話ですが,私の職場でも,クライアントではなく理学療法士・作業療法士ばかりが,一方的に自身のプライベートの話を延々としているのをクライアントが傾聴しているというケースがあります.また基本的には会話の主体はクライアントであるべきだと思いますので,われわれは傾聴の姿勢で,クライアントの話を聞いてあげるということも重要です.これは雑談に限らずクライアントが痛みや苦痛を訴えるような場合でも同じですが,話を聞いてもらえるだけでもクライアントは安心感を得ることができます.雑談を通じて,この人は自分の話を聞いてくれる,自分の話に共感してくれるとクライアントに感じてもらえれば,疾病や療養に関するさまざまな相談事を自らして下さる機会も増えると思います.さまざまな情報が増えれば,われわれが理学療法・作業療法を行う上でも非常に有益ですので,雑談を通じてクライアントとの信頼関係を築いていくことは理学療法士・作業療法士にとっても重要なスキルの1つになると思います.
雑談が終わらなくて練習に移行できない
多くの理学療法士・作業療法士が経験されていることだと思いますが,雑談に限らずクライアントの話がなかなか終わらないので練習に移行できないといった場合があると思います.基本姿勢は傾聴なわけですが,われわれはクライアントに運動療法をはじめとする理学療法・作業療法を提供する必要がありますので,ただただ傾聴して時間が過ぎてしまったということではまずいわけです.こういった場合には,話の良いタイミングで私は姿勢を変える方法や歩行補助具の位置を変えることで次の練習へ移行するようにしております.例えば坐位姿勢で傾聴していた場合には,そこから立位姿勢になるとクライアントも話をやめて練習をして下さることが多いです.また歩行補助具を使用している場合には,歩行補助具を手渡して歩行練習に移行するとかそういった方法も有効です.場合によっては,「せっかく話が盛り上がったとこではありますが,そろそろ練習に移りましょう」などと声掛けするのも良い方法だと思います.
今回は理学療法士・作業療法士の雑談力についてご紹介いたしました.有資格者はもちろんですが,社会時経験の少ない臨床実習生の場合,評価や運動療法に集中するがあまり,無言でクライアントとの時間を共にしているといったケースも少なくないと思います.ちょっとした雑談を交えながら理学療法・作業療法を実践できれば,クライアントともより良好な人間関係を築くことができるでしょう.
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