頸部回旋運動から股関節可動域を改善する?

人工股関節全置換術
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目次

頸部回旋運動から股関節可動域を改善する?

皆様は股関節の可動域を改善するためにどういった介入をされていますか?股関節への直接的なアプローチが最も行われる介入方法ですが,今回は頸部回旋可動域を改善による股関節可動域の改善の可能性について考えてみたいと思います.

TOTAL HIP CARE 股関節チームで支える人工股関節全置換術 [ 中川法一 ]

 

 

 

 

 

 

 

股関節可動域の重要性

大腿骨近位部骨折,変形性股関節症といった疾患は理学療法士・作業療法士が関わる機会の多い疾患です.

大腿骨近位部骨折例や変形性股関節症例,変形性股関節症に対する人工股関節全置換術後には,靴下の着脱動作や爪切り動作など股関節の大きな可動域を必要とする日常生活動作が困難となる場合が少なくありません.

これらの日常生活動作を獲得するためには,より早期に股関節可動域の改善を図る必要がありますが,骨折後,手術後,高度の変形性関節症を有する症例においては,可動域改善に難渋するケースも少なくありません.

こういった場合に,疼痛の強い股関節以外の部位に介入することで股関節の可動域が改善すれば,非常にアプローチとしては有益なわけです.

 

 

 

 

 

 

 

 

頸部回旋可動域と股関節可動域との関連

臨床において,股関節に可動域制限があるクライアントは,頸部にも一側性の回旋制限を認めることが明らかにされております.

先行研究によると発育性股関節形成不全の先天性素因の一つに開排制限と対側への強い向き癖があることが報告されております.

特徴的な非対称姿勢は母親の子宮内での姿勢矯正によって引き起こされるとされており,この非対称性姿勢が開排制限の原因になるのではないかと考えられております.

また股関節可動域と頸部回旋可動域について健常成人を対象に調査した報告によると頸部回旋可動域と股関節可動域に一定の関係性があることが明らかにされております.

この報告によると頸部回旋可動域の大きい側の股関節可動域は,屈曲・外転・外旋可動域が大きく,一方で頸部回旋可動域が小さい側の股関節可動域は,伸展・内転・内旋可動域が大きいことが明らかにされております.

すなわち頸部の右側方向への回旋可動域が大きいクライアントは右股関節の屈曲・外転・外旋可動域と左股関節の伸展・内転・内旋可動域が大きく,反対に左股関節の屈曲・外転・外旋可動域と右股関節の伸展・内転・内旋可動域ということになります.

 

 

 

 

 

 

 

 

なぜ頸部回旋可動域と股関節可動域が関連するのか

頸部回旋可動域と股関節可動域が関連する機序としては次のような機序が考えられます.

1つの要因として運動連鎖を挙げられます.

頸部回旋運動というのは頸部以遠の各分節に対して相対的な回旋偏位をもたらします.

例えば右側への頸部回旋に従い,上部胸郭は対側である左側へ回旋し,下部胸郭は同側である右側へ回旋します.

腰椎は対側である左側へ回旋し,骨盤は同側である右側へ回旋します.

骨盤の同側(右)回旋に伴い,右股関節の寛骨臼は後内方を向き,股関節は屈曲・外転・外旋位へ,左股関節の寛骨臼は前外方へ向き股関節は伸展・内転・内旋位へ偏位するのです.

つまり頸部回旋可動域と股関節可動域との関係は,臼蓋の向きの変位によって関連性が生じるのだと考えられております.

実際に坐位で頸部を右回旋すると右股関節が屈曲・外転・外旋しやすくなる一方で,左回旋すると右股関節が屈曲・外転・外旋しにくくなることが実感できると思います.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

臨床へはどのように応用できるか?

この頸部回旋可動域と股関節可動域の関係の法則は,股関節の可動域改善に生かすことができます.

頸部回旋可動域を改善させることで 間接的に股関節可動域の改善を図ることができれば,股関節周囲の疼痛が強く股関節への直接的アプローチが困難なクライアントに対する介入方法として非常に役に立ちそうです.

特に大腿骨頸部骨折後の人工骨頭置換術症例(後方アプローチ)や変形性股関節症例に対する人工股関節全置換術症例(後方アプローチ)においては,脱臼肢位を回避するために股関節を外転・外旋しながら深屈曲動作を行うことが重要となります.

頸部の同側方向への回旋可動域を改善することで屈曲・外転・外旋方向の可動域を改善できれば,靴下の着脱動作や爪切り動作といった人工骨頭置換術後や人工股関節全置換術後に難渋する動作獲得に寄与できる可能性があります.

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今回は頸部回旋可動域と股関節可動域との関連性についてご紹介いたしました.

今後のクライアントを通じた介入効果の検証が待たれますが,このように運動連鎖を考えて,遠隔部位からアプローチするというのはここ数年の1つの流れだと思います.

やはり局所にとどまらず全身を評価した上でアプローチを行うことが重要なのでしょうね.

 

参考文献
1)浜西千秋: 先天性股関節脱臼-その発生素因と治療戦略別冊整形外科57:2-6, 2010
2)原歌芳里, 他: 頸部回旋可動域と股関節可動域の関係. 第50回日本理学療法学術大会, 2015

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