今回は変形性膝関節症例の主症状である疼痛に関するよくある誤解について考えてみました.また神経支配の相違によって同程度の侵害刺激であっても疼痛を強く感じやすい部位と,そうでもない部位がありますので,そういった特徴を把握しておくことも重要です.
臨床実践変形性膝関節症の理学療法 (教科書にはない敏腕PTのテクニック) [ 橋本雅至 ]
目次
疼痛の原因は骨と骨がぶつかるためではない
変形性膝関節症例の疼痛を考えるときに,大腿骨と脛骨が衝突していたいといった説明がなされることがありますが,これは全くの嘘です.
そもそも関節軟骨・軟骨下骨には自由神経終末(神経)が存在しませんので,軟骨や軟骨下骨が衝突して疼痛が発生するといった考え方は大きな誤りなのです.変形性関節症例における疼痛は自由神経終末の存在する関節包や関節周囲組織(脂肪体・膝蓋上嚢・滑膜・筋・靭帯)由来の疼痛と考えるのが普通です.さらに炎症が起こると滑液が過剰に分泌され関節水腫が起こりますので,水腫によって関節包や関節周囲組織に伸張刺激が加わりこれが疼痛の原因となることもあります.
変形性膝関節症例の疼痛の原因は何か?
変形性膝関節症は,膝関節(大腿脛骨関節)に加わる異常なメカニカルストレスが要因で起こる退行性疾患である.近年では関節軟骨のみならず,半月板や関節包靱帯,筋などの膝関節周囲の軟部組織の退行性変化と考えられています.疼痛の原因を考える上では,疼痛の原因が関節内の組織なのか,関節外の組織なのかを考える必要があります.関節内組織の中で疼痛の原因になるものとしては,痛覚受容器の存在する骨髄軟骨下骨,滑膜,前十字靱帯付着部,半月板などが挙げられます.関節外組織の中で疼痛の原因になるものとしては,関節包,靱帯,筋・腱およびその付着部,脂肪体などが挙げられます.当然ながら疼痛の原因は対象者によっても異なりますので,疼痛の原因となっている組織を特定し,疼痛の原因となっている組織へアプローチすることが重要となります.さらに疼痛の原因となった組織が変性・損傷に至った根本的な原因を考えることも非常に重要となります.変形性膝関節症例においては膝関節への機械的ストレスが組織変性・損傷の根本的な原因になってことが多く,膝関節への機械的ストレスを軽減させることが重要となります.
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痛みが起こりやすい部位がある
実は変形性膝関節症における疼痛は侵害刺激が同程度であっても,疼痛を強く感じる部位と,そうでもない部位があります.
特に神経支配が豊富な膝蓋下脂肪体・膝蓋上嚢・前方滑膜には強い疼痛が生じやすいといった特徴があります.中でも膝蓋下脂肪体には伏在神経膝蓋下枝が走行しているため特に疼痛の原因となりやすいといった特徴があります.変形性膝関節症例の関節裂隙部に圧痛を訴える症例が多いのはこの膝蓋窩脂肪体由来の疼痛に起因するところが大きいでしょう.
機械的ストレスが膝関節に及ぼす影響
前述した通り膝関節への機械的ストレスを軽減させることが重要となりますが,ここでは機械的ストレスが膝関節へ与える影響を考えてみたいと思います.ヒトが起立し歩行するなかで,その膝関節を構成する軟部組織には常に機械的ストレスが加わっていると考えてよいでしょう.機械的ストレスとしては,荷重に伴う関節面への圧縮や圧迫力に加え,剪断力,靱帯や関節包などの伸張,筋の収縮や伸張などが考えられます.この機械的ストレスが何らかの原因で大きくなると,各組織に”異常な機械的ストレス”として加わることになります.この過剰な機械的ストレスは,関節軟骨などの関節内組織の微細損傷を引き起こし,結果として滑膜炎の原因となります.滑膜炎が生じると関節周囲組織の線維化と疼痛閾値の低下が進み,対象者の疼痛の訴えとして表出されるわけです.また滑膜から過剰な関節液が産生されると,膝関節に腫張が起こるわけですが,関節内圧が高くなると関節周囲の筋緊脹のアンバランスや受動組織の過伸張などが起こり,腫張そのものが疼痛を引き起こす原因になります.この機械的ストレスがどのように起こるかに関しては様々な要因が複雑に関連しているわけですが,膝関節内反アライメントに限らず,膝関節周囲の筋や靭帯の機能不全によるもの,隣接関節や休幹などの機能不全によるものなど,様々な要因が密接に関連しています.
今回は変形性膝関節症例の主症状である疼痛に関するよくある誤解について考えてみました.骨と骨がぶつかって痛いといったクライアントへの説明は嘘ではありますが,高齢者にもわかりやすい説明にはなりますので,ある程度許容しても良いと思います.しかしながら専門職同士で骨と骨がぶつかって痛いなんて言ってたら…非常に悲しいですよね.
参考文献
1)Dye SF: Conscious neurosensory mapping of the internal structures of the human knee without intraarticular anesthesia,Am J Sports Med,1998
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