変形性膝関節症例における疼痛に対するアプローチの1つとして物理療法が挙げられます.物理療法にはさまざまなモダリティが存在しますが,変形性膝関節症に対する疼痛管理を目的とした物理療法には,電気刺激療法・温熱療法・寒冷療法・光線療法・温泉療法などが挙げられます.今回は変形性膝関節症例に対する物理療法について考えてみました.
目次
電気刺激療法
電気刺激療法にも様々なものがありますが,鎮痛を目的として電気刺激を用いる場合には,経皮的神経電気刺激(TENS)が効果的です.慣れてくると刺激強度を上げたがる対象者が多いですが,基本的には患部に電気刺激を感じる(心地よいと感じる)程度の感覚レベルとすると有効です.筋収縮が生じる程度の強度で電気刺激を用いる場合もありますが,これは筋収縮に伴うマッサージ効果を目的とする場合です(変形性膝関節症例に対して用いられることは少ないです).周波数は数Hz~200Hz程度の変調波を用いることが好ましいです.一定の周波数で刺激した場合と比較して,周波数を変調させながら刺激した場合の方が内因性オピオイドを効果的に放出できるとされております.内因性オピオイド物質の放出によって,GABAニューロンの脱抑制に伴う下行性疼痛抑制系を賦活させることができます.
温熱療法(ホットパック)
ホットパックは表在温熱療法ですので,皮盧温は上昇しますが皮下数cm程度になると生体の温度上昇はほとんど起こりません.ホットパックによる患部への熱の提示は温痛覚閾値である44℃未満とする必要があります.生理的効果は熱刺激による血管拡張作用,組織代謝の上昇,局所循環の向上,発痛物質の除去などが挙げられます.一般的に治療時間は10分程度である.治療中は皮膚の状態(皮唐温,発赤,発汗状況など)を随時チェックしながら熱傷に注意する必要があります.
極超短波療法
極超短波は深部温熱療法ですので,脂肪層,筋層にまで影響し,深部組織の温度を上昇させることができます.生理的効果としてはホットパックと同様ですが,温熱効果を深部まで波及させることができます.出力強度は患部の心地よい温熱感覚が得られる程度とし,治療時間は10分程度で実施します.極超短波は誘電率の高い金属部に集中する特性がありますので,金属部への照射は禁忌となります.したがって人工膝関節全置換術後には使用できません.
物理療法実践マニュアル (コンディショニング・ケアのための)[本/雑誌] / 川口浩太郎/編
超音波療法
超音波療法には温熱作用と非温熱作用があります.鎮痛を目的とした治療では温熱作用が主となります.超音波療法は極超短波療法より深部に温熱効果が及びます.目的とする治療部位の位置によって周波数を選択する必要がありますが,筋に対して照射する場合は3MHz, 関節周囲の軟部組織に照射する場合は1MHzを用います.金属への超音波照射はエネルギーの集中を生じますが,熱伝導率の高い金属では組織損傷を生じるような温度上昇が起こることは無く,人工膝関節全置換術後であっても使用が可能です.
科学的根拠から見た変形性膝関節症に対する物理療法
今回は変形性膝関節症例に対する物理療法については日本理学療法士協会が作成した変形性膝関節症 理学療法診療ガイドラインでもその効果についてまとめられております.現在のところ推奨グレードAは超音波療法・温泉療法・TENSの3つです.使用機会の多いホットパックは残念ながら行うように勧められる科学的根拠がないとなっております.
物理療法の疼痛や生活機能障害などの主観的効果に関する研究は欧米でなされているものの,膝関節軟骨破壊に対し物理療法が効果があるのか否かについて不明であります.すなわち変形性膝関節症に対する物理療法はあくまで対症療法と考えた方が良いでしょう.
今回は変形性膝関節症例に対する物理療法について考えてみました.疼痛は変形性膝関節症例の主症状の1つですので,物理療法が生体に及ぼす影響を十分に理解した上で,疼痛管理に生かしたいですね.
参考文献
1)Pryde JA: Pain,Physical Agents in Rehabiritation (Cameron MH, ed) ,pp39-67, 1999
2)篠原英記: 熱物理学・温熱の生理学的作用標準理学療法学専門分野物理療法学第2版(網本和編), pp5-61. 2005、医学書院
3)日本理学療法士協会,変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン
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