前回は変形性膝関節症例におけるX線の診方についてご紹介させていただきました.
変形性膝関節症例の病態を把握するためにはX線から脛骨大腿関節・膝蓋大腿関節の状態を評価することが重要ですが,実は変形性膝関節症例における変形の程度と疼痛をはじめとする症状は一致しないということがわかっております.
今回は変形と症状との関連についてご紹介したいと思います.
極める変形性膝関節症の理学療法 保存的および術後理学療法の評価とそのアプローチ/斉藤秀之/加藤浩
目次
単純X線による関節変形の程度と疼痛は必ずしも比例しない
変形性膝関節症における関節の変形の程度は,単純X線によって確認できます.
前回ご紹介いたしましたKellgren-Lawrence分類を使用して骨棘形成の程度や関節裂隙の狭小化を評価するわけですが,実際には変形性膝関節症による疼痛は,必ずしもその変形の程度に比例せず,逆に変形の程度は軽度であるにもかかわらず,膝痛を訴える症例も少なくありません.
なぜ変形が軽度の症例で疼痛が強い症例が存在するのか?
変形性膝関節症例における荷重時の疼痛を考える上で重要なのは関節の不安定性です.
変形性膝関節症例においてはLateral thrustや回旋不安定性などによって膝関節に不安定性が生じやすいのですが,変形が軽度であってもLateral thrustや回旋不安定性が強い症例は荷重時に膝痛が生じやすいことになります.
また不安定性が強い場合には,関節の不安定性を代償するために筋に過剰収縮が生じることも少なくありませんので,筋の過剰収縮が二次的な疼痛の限界になる場合もあります.
さらにはX 線像には反映されにくい軟骨・半月・滑膜・軟骨下骨の変性や損傷が進んでいれば,変形は軽度であっても疼痛が出現しやすいことが考えられます.
加えて患者の疼痛の訴え方は社会的・心理的背景にも大きく左右されますので,変形=疼痛といった公式は成り立たないわけです.
なぜ変形が高度の症例で膝関節痛を訴えない症例が存在するのか?
前述したように変形性膝関節症例における荷重痛を考える上では膝関節の不安定性を考える必要があります.
変形が高度であっても骨棘形成により,内側関節裂隙の内側に骨棘が形成されることで,新しい関節面が形成され膝関節の安定性が得られる場合には,実は荷重に伴う疼痛が少ないといったケースは少なくありません.
そのため変形が高度にもかかわらず,症状のない非症候性の変形性膝関節症例が存在するわけです.
そういった意味では変形性膝関節症が進行する中で,骨棘増殖などの補正機能が働きますが,一定レベルで成功した関節は非症候あるいは低症候となり,補正がうまくいかなかった関節が症候性関節として治療の対象となるのかもしれません.
また補正が成功したとしても,変形性膝関節症がさらに進行すると,補正による代償が不十分となり,次段階の症候を生じてくる可能性もあります.そういった意味で考えると,非症候性の変形性膝関節症例であっても理学療法士にとっては予防を含めた治療対象であると考えることができます.
臨床実践変形性膝関節症の理学療法 (教科書にはない敏腕PTのテクニック) [ 橋本雅至 ]
なぜ関節の不安定性が強くなるのか?
ここまでの話で変形性膝関節症例における荷重時痛に影響を与える要因として関節の不安定性が重要であることをご理解いただけたと思いますが,それではなぜ変形性膝関節症例においては関節の不安定性が強くなるのでしょうか?
単純には軟骨の摩耗によって軟骨が存在していた部分に空間ができ,靱帯などの軟部組織には緩みが起こります.
このような変形性膝関節症に伴う組織変化によって,関節動揺性が生じるものと考えられます.
さらに荷重時のLateral thrustによってこの関節の動揺性がさらに強くなることが報告されております.
したがって関節動揺性を軽減するためにはLateral thrustを軽減することが非常に重要となります.
今回はなぜ単純X線による関節変形の程度と疼痛が一致しないのかについて考えてみました.X線を見る場合には関節不安定性といった視点で情報を得ることが重要です.
参考文献
1)熊谷匡晃: 変形性膝関節症に対する運動療法. 関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション. 整形外科リハビリテーション学会. pp116-119, 2008, メジカルビュー社
コメント