今回からは数回に分けて脛骨近位端骨折例における理学療法について考えてみたいと思います.
初回は脛骨近位端骨折例の特徴についてご紹介いたします.
脛骨近位端骨折の中でも脛骨高原骨折(脛骨プラトー骨折)は機能的予後が不良になりやすいので特徴を理解しておくことが重要です.
脛骨プラトー骨折の「プラトー(plateau)」とは英語で「高原」を意味します.
脛骨関節面を高地に広がった平原に見立てた専門用語です.
この部分の骨折は関節内の骨折となりますので,荷重や膝関節運動に大きな影響を与えます.
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目次
脛骨近位端骨折の原因・誘因
脛骨高原骨折は基本的に関節内骨折であり,交通外傷やスポーツ外傷に多くみられます.
膝関節に対する内反・外反強制,軸方向への圧迫外力,回旋ストレスによって,骨片の分離や関節面(プラトー)の陥没を生じるのが特徴的です.
また最近では高齢者の転倒による人工膝関節全置換術周囲骨折も増加しています.
交通事故やスポーツ外傷などの高エネルギー外傷の場合,内側または両側の高原骨折となることが多いのですが,高齢者の転倒による骨折では,外側の陥没骨折を受傷することが多いのが特徴です.
健常例では大腿脛骨角(femorotibial angle:FTA)が175°前後と外反膝を呈しているため,脛骨外側頚に好発するわけです(脛骨高原骨折の70%が外側の単独骨折であると報告されております).
そのため脛骨高原骨折に合併する半月板損傷は外側半月板の後角に頻発します.
脛骨近位端骨折例の重要な特徴として,骨折だけでなく膝靭帯損傷や半月断裂,血管損傷を合併するといった点も挙げられます.
さらに経過中にコンパートメント症候群や深部静脈血栓症を合併することもありますので,慎重な経過観察が必要となります.
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なぜコンパートメント症候群が生じやすいのか?
脛骨近位端骨折例は骨折や筋組織の挫滅によって出血し,コンパートメント内圧が亢進することでコンパートメント症候群が起こりやすいのが特徴です.
また細動脈の閉塞によって神経組織・筋組織・皮膚の循環障害をきたしやすい点にも注意が必要です.
コンパートメント症候群の主症状は疼痛・腫張・感覚障害・運動障害で,筋を他動的に伸張させたときにも疼痛が出現します.
脛骨の近位後方には後脛骨動脈が走行しておりますので,この後脛骨動脈の損傷によって下腿のコンパートメント症候群が起こりやすいとされております.
脛骨近位端骨折におけるコンパートメント症候群の発生率は約3%程度ですが,脛骨近位骨幹端骨端境界部の骨折では18%と高頻度に発生します.
参考文献
1)長野博志: 知っておきたい骨折の治療手技 脛骨近位部骨折の治療. 関節外科 31: 1209-1224, 2012
2)Mustonell AO, et al. : MRI of acute meniscal injury associate with tibial plateau fractures: prevalence, type, and location. Am J Roent genol 191: 1002-1009. 2008
3)McQeen MM, et al. : Acute compartment syndrome tibial diaphyseal fractures. J Bone Joint Surg Br 78: 95-98, 1996
4)Stark E, et al: Compartment syndrome Schatzker typeVI plateau fractures and medial condylar fracture dislocation streated with temporary external fixation. JOrthopTrauma 23: 502-506, 2009
5)前原孝: 脛骨近位部骨折に対する観血的治. MB Opthop26: 129-138, 2013
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