皆様は高齢者の筋力向上を図る際に個別の筋群に筋力トレーニングを行って筋力の強化を図る方法と,立ち上がり・歩行・階段昇降といった動作練習を通じて筋力の強化を図る方法のどちらが有効だと思いますか?
今回は高齢者の筋力トレーニングについて,個別の筋力トレーニングと動作練習を通じた筋力トレーニングとどちらが有用かを考えてみたいと思います.
目次
筋力を向上させるためには筋力トレーニングか動作練習か?
この質問の回答ですが,
対象者によってどちらが有効かは異なる
というのが正しい答えでしょうか.
健常者やアスリートが歩行練習を行っても,下肢の筋力が向上するというのは考えられませんよね.
これは健常者やアスリートでは歩行を通じて使用する筋の活動量が最大随意収縮(Maximally Voluntary Contraction:MVC)の20%程度にすぎないからです.
健常者やスポーツ選手にとっては普通に歩行するというのは運動負荷が高くないわけです.
筋力強化を考えるときには,必ず過負荷の原則(Overloadの原則)を考慮する必要があります.
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過負荷の原則
過負荷の原則というのは筋力を増強させるためには,40%MVC以上つまり最大随意収縮の40%以上の運動負荷でないと筋力が向上しないという法則です.
当然ながら運動負荷が高くても筋力トレーニングを実施する持続時間や頻度が少ないと十分な効果は得られませんので,運動負荷に合わせて持続時間や頻度も考慮する必要があります.
虚弱高齢者における動作練習
健常者やアスリートでは歩行を通じて使用する筋の活動量が20%MVCにすぎないといった点に関しては前述いたしましたが,虚弱な高齢者にとっては立ち上がり・歩行・階段昇降といった動作が40%MVC以上に相当することが多いので,動作練習を通じて筋力の強化を図ることが可能なわけです.
また動作練習を通じて筋力強化を図りながら,動作のスキルを獲得できるといった点も動作練習によって筋力強化を図る利点であります.
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代償動作を考えると
では虚弱高齢者を対象として筋力を強化する際には動作練習を行っておけばいいのかという話になりますが,そんなに単純ではありません.
ここでポイントになるのは代償動作です.90代の大腿骨転子部骨折例を例に考えてみたいと思います.
この症例は歩行の患側荷重応答期に骨盤が対側傾斜する,いわゆるTrendelenburg兆候を呈しておりますので,理学療法士であれば誰もが股関節外転筋群を強化する必要があると考えるわけですが,同時にTrendelenburg兆候を代償するためにDuchenne兆候が出現している場合には,歩行練習を継続していても股関節外転筋群を強化することにはなりません.
したがってこういった場合には,動作練習と合わせて個別に筋力トレーニングを実施する必要があります.
今回は高齢者の筋力トレーニングについて,個別の筋力トレーニングと動作練習を通じた筋力トレーニングとどちらが有用かについて考えてみました.
対象者の状況に合わせて個別の筋力トレーニングと動作練習を通じた筋力トレーニングをうまく使い分ける必要がありますね.
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