今回は徒手筋力検査法(Manual Muscle Testing:MMT)の中でも最も使用頻度の高い膝関節伸展筋力測定における良くある誤りをご紹介いたします.膝関節伸展筋力は全身のさまざまな筋力との相関が高く,握力とともに筋力の代表値としても用いられることが多いわけです.また起立・歩行といった動作との関連も高いので,特に下肢の筋力の代表値として膝関節伸展筋力を測定する機会は少なくありません.臨床実習でも最も測定機会の多い筋力テストだと思います.
新・徒手筋力検査法原著第9版 [ ヘレン・J.ヒスロップ ]
目次
MMTによる膝関節伸展筋力測定
膝関節伸展の主動筋は大腿四頭筋(大腿直筋・中間広筋・外側広筋・内側広筋)であり,ヒトの筋肉の中で最も大きい筋肉です.
被検者を端坐位とし,両手で台の縁をつかみ上体を安定させた上で膝関節を伸展させます.検者は検査側の下肢の側に立ち,他方で下腿部遠位の前面から抵抗を加えます.このテストはMMTのNormal・Good・Fairの筋力を評価する時に実施する方法ですが,このテストの方法に非常に誤りが多いのです.
MMTによる膝関節伸展筋力測定における誤り
このテストの際によくある誤りが以下のような方法です.
上の図はMMTの膝関節伸展筋力測定の方法を示したものですが,左右の違いに気付きましたか?左の図も右の図もあまり変わりないように思うかもしれませんが,左の方法と右の方法ではずいぶん意味が変わってきます.ここで重要なのは右側の図では膝関節(膝窩部)が固定されていないという点です.左側の図では膝関節伸展筋群に抵抗が加えられておりますが,右側の図では膝関節が固定されておりませんので,股関節屈曲筋群に抵抗を加えていることとなります.加えて抵抗を加える点から関節の支点までの距離が長くなっておりますので,モーメントアームが長く抵抗に抗するにはかなりの力が必要となります.股関節屈曲筋群である腸腰筋や大腿直筋には膝関節伸展筋群である大腿四頭筋ほど大きい筋肉ではありませんので,健常若年者でも右側の方法で抵抗に抗して下肢をholdできる人はほとんどいません.結果としてMMTでは膝関節伸展筋力がGood(4)と誤った評価結果になってしまいます.
ここで重要なのは膝関節(膝窩部)を固定するということです.上の図では椅子の座面の長さが大腿長よりも短いので膝窩部が固定されておりません.こういった場合には必ず検者の手を膝窩部に入れ,膝窩部を固定してから検査を行うことが重要です.
今回はMMTの中でも最も使用頻度の高い膝関節伸展筋力測定における良くある誤りをご紹介いたしました.当たり前の事ですが,臨床実習などではこういった誤った方法で測定を行う実習生も少なくありませんので,必ずおさえておきたいところです.
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