膝蓋骨は大腿四頭筋の中に存在するヒトの生体の中で最も大きい種子骨であり,大腿四頭筋を効率的に働かせるためのレバーアーム形成,膝関節の動的安定性と回転効率の向上,膝関節内組織の保護作用といった,膝関節機能にとって非常に重要な役割を担っています.膝蓋骨の骨折の発生率ですがおおよそ全骨折の約1%程度です.整形外科のある病院ではしばしば遭遇する外傷のひとつではないでしょうか.
目次
受傷機転・受傷年齢
膝蓋骨骨折は若い世代(20~50歳代)に多く,約7割が男性に発生しているというのも大きな特徴です.左右差はなく両側に発生することはあまりありません.受傷機転には,①膝蓋骨への直達外力によるもの(転倒時の膝の強打やダッシュボード損傷)と,②大腿四頭筋の収縮による介達外力によるもの(跳躍など)があります.直達外力によるものは交通事故や転倒などが原因となる場合が多いのが特徴です.転倒の場合には前方への転倒による受傷が大部分を占めます.段差につまづいた,敷居につまづいたといった受傷機転が少なくありません.直達外力によるものは粉砕骨折になることが多いですが,転位は少なく膝蓋支帯の損傷は少ないとされています.介達外力によるものは横骨折を呈することが多いのが特徴ですが,膝蓋支帯の断裂具合に応じて転位が生じるとされています.
膝蓋支帯というのは聞きなれない言葉かもしれませんが膝蓋骨の内外側に付着した組織で,膝蓋靱帯とともに膝骸骨の内外側の安定性に貢献している組織です.この膝蓋支帯に損傷が及ぶと膝蓋骨の骨片は容易に転位してしまいます.
膝蓋骨骨折の分類
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骨折型は,横骨折,粉砕骨折,縦骨折,粉砕骨折などに見られます.小児期に特徴的な骨折として,下極上極の骨軟骨の裂離骨折(sleeve骨折)があります.頻度としては横骨折・粉砕骨折が多く,この2種類の骨折が9割以上を占めます.
膝蓋骨骨折の整形外科的治療
1~2mm以内の関節面の転位であれば保存的に治療が行われる場合がほとんどです.保存療法では血腫穿刺後に大腿から下腿までギプス固定が行われますが,荷重制限を設けないのが一般的です(膝蓋骨は膝関節伸展位では荷重に関与しないとされております).2週間くらいギプス固定を行った後に,knee braceまたはシーネ固定などの取り外し可能な外固定装具に変更してから,関節可動域運動を開始します.全固定期間は通常3~4週間を目安としますが,定期的にX線検査で骨の癒合状況を確認する必要があります.
一方で3mm以上の離開があれば,膝蓋支帯も断裂しており,徒手整復は不可能でありますので手術療法の適応となります.
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今回は膝蓋骨骨折の特徴についてご紹介いたしました.次回は膝蓋骨骨折に対する手術療法について紹介させていただきます.
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