以前の記事でもご紹介いたしましたが,変形性股関節症例の理学療法を考える上では矢状面上の臼蓋被覆を考えることが重要となります.今回は骨盤前後傾の評価の方法について考えてみたいと思います.
目次
矢状面上における臼蓋被覆
以前の記事もご紹介いたしましたが,まずは矢状面上における股関節の構造について考えてみたいと思います.
通常,関節窩(寛骨臼)は楕円に近い半球状になっており,後面部は深い作りになっていて骨性支持が高くなっているのですが,前面部は浅く骨性支持が低くなっています.
構造上,大腿骨頭前面の臼蓋被覆率が低いわけですが,骨盤を前傾させることで臼蓋被覆を増加させることができます.
骨盤前後傾の評価~上前腸骨棘(ASIS)と上後腸骨棘(PSIS)の触診~
骨盤前後傾の評価を行う上では,上前腸骨棘と上後腸骨棘の位置関係を診ていくことが重要となります.
上前腸骨棘については比較的簡単に触診をすることが可能です.腸骨稜を前方にたどっていきながら最も突出した部分が上前腸骨棘となります.
わかりにくければ上前腸骨棘に起始を持つ,縫工筋を収縮させ縫工筋の筋腹を近位方向にたどっていくと上前腸骨棘を触診できます(立位で縫工筋を収縮させるのは大変ですが…)
上後腸骨棘については非常に触診が難しい部位となります.
上後腸骨棘を触診する際には,大殿筋を収縮させ『ビーナスのえくぼ』を確認し,その起始部に沿って上後腸骨棘を触診します.これがまたビーナスのえくぼを確認できる対象が限られていたりしますが…
骨盤前後傾の基準
一般的には上前腸骨棘より上後腸骨棘が2~3横指高い状態が前後傾中間位となります.
したがって上前腸骨棘と上後腸骨棘の距離が2横指以下になると骨盤は後傾位になっていると判断できます.
また上前腸骨棘と上後腸骨棘の距離が3横指以上になると骨盤は前傾位になっていると判断できます.
骨盤前後傾の評価におけるポイント
上前腸骨棘と上後腸骨棘の位置関係を診ることで骨盤が前傾にあるのか,後傾位にあるのかを判断できるわけですが,この際に合わせて評価しておくと良いのが腰椎の前後彎です.
骨盤前傾位の症例では腰椎が前彎姿勢になっていることがほとんどですし,骨盤後傾位の症例では腰椎が後彎位になっていることがほとんどです.
また姿勢によっても骨盤前後傾の角度が変化しますので,背臥位と坐位,坐位と立位といった姿勢間で骨盤前後傾角度を比較すると,骨盤前後傾位を引き起こした原因を見つけやすくなります.
通常は臥位から立位になるにしたがって骨盤は5°後傾すると言われております.
臥位姿勢でも骨盤が著しく前後傾位を呈している症例では,腰椎や股関節の拘縮などによる構造的な問題が前後傾姿勢の原因となっていることが多いです.
臥位姿勢では骨盤が前後傾中間位ににもかかわらず,坐位で骨盤前後傾位を呈する症例では脊椎の屈曲・伸展を担う筋群の機能低下や,抗重力肢位に伴う脊椎由来の疼痛等が前後傾を引き起こす要因と考えられます.
また坐位姿勢では骨盤前後傾中間位にもかかわらず立位で骨盤前後傾位を呈する症例では,下肢の筋活動や,股関節・膝関節・足部からの上行性運動連鎖による影響が骨盤前後傾位の原因と考えられます.
今回は骨盤前後傾の評価の方法についてご紹介いたしました.骨盤前後傾の評価を行う上では,前傾しているのか後傾しているのかといった姿勢を評価することにとどまらず,なぜ骨盤が前後傾位になっているのかを考えることが重要となります.
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