変形性股関節症例における筋力トレーニング~MMT Poorレベルの症例は背臥位で股関節外転筋力トレーニングを行うといった誤った常識~

変形性股関節症
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以前の記事では変形性股関節症例における筋力低下について,股関節外転筋,インナーマッスルである腸腰筋・小殿筋・深層外旋六筋の機能低下を中心に紹介させていただきました.

今回は筋力トレーニングの実際について股関節外転筋力トレーニングを中心に考えてみたいと思います.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目次

臼蓋被覆を考慮した股関節外転筋力トレーニング

変形性股関節症例の股関節外転筋力トレーニングを考える上では,前額面上における臼蓋被覆を考慮する必要があります.

股関節外転位では臼蓋と大腿骨頭の求心力が増し,関節が安定するのに対し,股関節内転位では大腿骨頭を外上方へ偏位させる力が強くなります

したがって変形性股関節症を予防するためには,股関節外転位で骨頭求心力を高める必要があります.

股関節内転位で股関節外転筋力トレーニングを行うと,大腿骨頭を外上方へ亜脱臼させる力が加わりますので,変形性股関節症の進行を助長してしまうことになります.

一方で股関節外転位で外転筋力トレーニングを行うことで,大腿骨頭の求心性を高めながら運動を実施することができます

 

また股関節外転筋力トレーニングの実施する際の股関節外転角度は,股関節周囲筋の活動バランスにも影響を与えます.

股関節周囲筋の解剖学的作用とトルク発揮寄与率を明らかにした研究では股関節外転作用のある筋のトルク発揮寄与率は,中殿筋(62.1%), 小殿筋(15.6%) , 大腿筋膜張筋(5.5%)とされております.変形性股関節症例を対象に股関節外転筋力トレーニングを行うに当たっては,インナーマッスルである小殿筋の活動を向上させ,大腿骨頭の求心性を向上させることが重要となります.

中殿筋は外転角度が増加するに伴い活動が低下する一方で,小殿筋には外転角度による大きな変化はないため,股関節外転位では小殿筋の活動が大きくなります.

したがって小殿筋の活動を得るには股関節外転位でのトレーニングが有効だと考えられます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

股関節外転筋力がMMT Poorレベル以下の症例は背臥位で股関節外転筋力トレーニングを行うといった誤った常識

教科書等でこんな記述を見たことはありませんか?

「股関節外転筋力のMMTがPoorレベル以下の症例の場合には,背臥位で股関節外転筋力トレーニングを行います」

これって正しいでしょうか?

たしかに筋力を考えれば抗重力位でトレーニングを行うことが難しいわけですから,自主トレーニングとしては背臥位でのトレーニングを指導せざるをえません(腹臥位もありかもしれませんが…).

しかしながら理学療法士が介入をする際には背臥位で股関節外転筋力トレーニングを行う必要がありません.

背臥位での股関節外転運動では下肢後面とマットとの摩擦を避けるために,外転運動時に必ず股関節の屈曲運動を伴うことになります.

そのため外転筋群の中でも大腿筋膜張筋の収縮が主体となってしまいます.これに対して側臥位で股関節を伸展位として,股関節を外転すると中殿筋・小殿筋の活動が得られやすいのです.

当然ながらMMT Poorレベル以下なのですから,抗重力位で下肢を保持することができませんので,そこはわれわれが補助する必要があります.

ここで重要なのは補助する際に接触する面積を変化させることです.

同じように下肢を保持していても,保持する際の接触面積が大きくなると外転筋群の活動は小さくなりますが,接触面積が小さくなると外転筋群の活動が大きくなります.

したがって対象者の筋力のレベルに合わせて理学療法士が下肢を保持する際の接触面積を変化させることで,中殿筋・小殿筋の筋活動を向上させることができます.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

股関節外転筋力がMMT Fairレベル以上の症例に対する股関節外転筋力トレーニング

股関節外転筋力がMMT Fairレベル以上の症例に関しては,下肢を抗重力位で保持することが可能ですが,この際に股関節が屈曲位とならないようにハンドリングすることが重要です.

また踵部から股関節に向かって,下肢の長軸方向へ圧縮を加えるとより歩行立脚期に近い筋活動が得られますので,トレーニングが歩行や立位につながります.

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

荷重位での股関節外転筋力トレーニング

よくある話ですが股関節外転筋力がMMTでGood~Normalのレベルになったにもかかわらず,Trendelenburg兆候やDuchenne兆候が改善しない症例というのは少なくありません.

なぜこういった現象が起こるのかということですが,一つは非荷重位と荷重位では運動の制御方法が全く異なるためです.

したがってこういった症例の場合には荷重位でトレーニングを行うことが勧められます.

このトレーニングでは支持側がトレーニング側となっております.

体幹の側屈による代償が出現しやすいので代償動作に注意が必要です.

体幹側屈による代償が大きい場合には壁際で代償を抑制してトレーニングを実施する方法も有効です.

側方からの段差昇降練習も荷重位で股関節外転筋群を強化する上では有用です.

この際には膝関節を伸展させ,骨盤の同側傾斜(股関節外転)によって身体を挙上することが重要となります.

立ち上がり・立位保持・歩行に必要な筋力を強化したい場合には,非荷重位でのトレーニングのみでは動作に汎化されない場合が少なくありません.

荷重位でのトレーニングは筋の協調性(空間的・時間的)改善にも有用ですので,積極的に導入しましょう.

 

今回は変形性股関節症例における股関節外転筋力トレーニングをご紹介いたしました.

変形性股関節症例の股関節外転筋力トレーニングを実施する場合には,臼蓋被覆・筋活動バランス・荷重位でのトレーニングなどが重要なキーワードになると思います.

これらの要因を考慮した上でトレーニング方法を熟考する必要があると思います.

 

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参考文献

1)Kumagai :Functional evaluation of hip abductor muscles with use of magneticresonance imaging.J Orthop Res15: 888-893, 1997

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