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さまざまなバランス評価
前回まで片脚起立テスト,Functional Reach test,Timed up and Go testについて紹介させていただきました.
これらのバランス評価法はバランスの階層構造から考えるとそれぞれ異なるバランスの要素を評価するものになります.
ということは全ての評価を対象者に行うのも間違いではないと思いますが,時間が無い場合には全ての評価を行うことが難しいといった場合もあるでしょう.
バランス評価を選択する際には,階層構造だけでなく検査の難易度も考慮する必要があります.
今回はバランス評価の難易度について考えてみたいと思います.
TUGは簡単すぎる?
バランス評価を行う目的はバランスが良いのかどうかを評価するといったもの以外にも,評価に基づく結果をフィードバックすることによって運動継続のモチベーションにつなげるといった目的も挙げられると思います.
運動を継続してもらうためには,できれば運動を行ってバランス評価の結果が改善したという成功体験が非常に重要だと思います.介護予防に携わったことのある方であれば誰しもが経験されていることだと思いますが,TUGというのは元気な高齢者を対象に使用した場合,運動を行ってもそれ以上変化しないことが多いのです.
というのも元気な高齢者のほとんどはTUGが4~5秒程度ですので,それから一生懸命トレーニングを行ってもTUGが2秒台・3秒台に改善するというものではありませんよね?
これは床効果(floor effect)と呼ばれるものですが,要するにTUGが4~5秒程度ですと既に底打ちでそれ以上データが変化しないということになります.
一方でTUGが10秒を超えているような虚弱高齢者の場合には,TUGをアウトカムとしても十分な変化が得られる可能性が高いわけです.
何とか杖歩行ができるような入院中のクライアントなどを対象にTUGを行うと,バランス評価としても機能的な移動能力の評価としてもとても有用なわけです.
このように課題の難易度が簡単すぎると,せっかく運動を行ってもアウトカムが変化しないということがありますので,理学療法士は対象者の身体機能に合わせて適切なバランス評価視標を選択することが重要となります.
片脚立位テストは難しすぎる?
片脚起立テストはシルバーカーを使わないと歩行が難しいような虚弱高齢者にとっては課題が難しすぎる可能性があります.このような場合には,せっかく運動を継続していても片脚起立時間が向上するほどまで改善が得られないといった場合も少なくありません.
これでは運動継続のモチベーションに繋がりませんよね.
一方で元気な高齢者のバランス機能評価としては片脚立位テストは難易度が高いので,十分に改善の余地があり,運動介入前後で片脚立位テストを用いるというのは非常に有効です.
課題の難易度を考えよう
バランス評価を選択する場合には静的バランスか動的バランスかといったバランスの階層構造だけでなく,課題の難易度を考えることが重要です.
同じ静的バランス検査であっても片脚起立検査のようにかなり難易度の高い検査もあれば,tandem立位検査のような課題難易度の低い検査もあります.
同様に,TUGは動的バランス検査の中では非常に課題難易度が低いわけですが,一方でtandem歩行検査などは課題の難易度が高くなります.
以前に比較してもかなりの数のバランス検査指標が報告されておりますので,難易度を考えた上で適切な検査指標を選択するのも理学療法士の重要な役割だと思います.
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