前回までは高齢者の骨折の実態や骨折の怖さについて紹介させていただきました.
転倒を予防する意義についてはおおよそ理解していただけたかと思います.
今回は転倒を予防するために,まず転倒を引き起こす原因について考えてみたいと思います.
目次
高齢者の転倒を引き起こす原因
高齢者の転倒の原因については様々な要因が報告されておりますがまとめるとこんな感じです.
高齢者の転倒の原因は大きく分類いたしますと内的要因と外的要因に分類できます.
内的要因というのは高齢者自身に問題がある場合です.
一方で外的要因というのは高齢者を取り巻く環境に原因がある場合です.
内的要因は加齢変化・身体的疾患・薬物がその原因になることが少なくありません.ここでは1つ1つの原因に関して考えてみたいと思います.
転倒の原因 加齢変化
- 筋力低下
- 運動速度低下
- 反応時間延長
- 平衡機能低下
- 感覚機能低下
年齢を重ねると筋肉の力が落ちたり,運動速度が遅くなったり,反応時間が遅くなったり,バランスが悪くなったり,感覚が鈍くなったりします.
目が悪くなったり,耳が悪くなったりするのも年齢を重ねることで感覚器が鈍くなってしまうためです.
こういった加齢変化はまとめると運動機能の低下と総称されますが,運動機能低下が転倒を引き起こすというのは読者の皆様も想像に難くないところかと思います.
転倒の原因 身体的疾患
病気そのものが転倒を引き起こすといったことも少なくありません.
循環器系疾患で転倒と結びつく病気の代表は起立性低血圧ではないでしょうか.
起立性低血圧というのは寝た状態または座った状態から立った姿勢になった際に,足の方に血液が偏ってしまい,脳に十分な血液がとどかなくなるために,意識を失ってしまうというものです.
末梢の血管が拡張している入浴時などに起こりやすいのが特徴です.筋力が強くてもバランスが良くても起立性低血圧によって失神してしまうと誰だって転倒してしまいよね.
また脳卒中やパーキンソン病といった神経系の病気によって歩行しにくくなることで転倒するといった場合もありますし,変形性関節症のような筋骨格系の病気によって痛みがあるために歩行しにくくなって転倒してしまうということもあります.
さらには白内障・緑内障といった視覚系の病気もまた転倒の原因になってしまいます.
転倒の原因 薬物
お薬の内服についても転倒の原因になります.
睡眠導入剤や抗うつ薬・抗精神病薬には眠気を誘う作用がありますので,こういった薬を飲まれている場合には注意が必要です.
さらに4~5剤以上の種類のお薬を飲まれている場合には,4~5剤以下の種類を飲まれている方に比較して非常に転倒しやすいということもわかっております.
お薬をたくさん飲まれている方はお薬の種類や量の調節が必要なのです.
転倒の原因 物的環境
外的要因としては物的環境が重要です.
スリッパなんかをはいて家の中を歩いていれば当然転倒しやすいですし,マットが滑りやすい,コンセントに引っ掛かりやすい,段差が多いといったような環境であれば,足腰がしっかりしていたとしても転倒しやすくなってしまいます.
転倒を引き起こす原因の中で最も重要なのは?
上にご紹介いたしましたように転倒を引き起こす原因は様々ですが,それでは様々な要因の中で最も重要な要因は何なのでしょうか?
最も重要とされているのは実は過去の転倒歴なのですが,ここで考えなければならないのが,原因が改善可能なものなのかどうかといった点です.
過去に転倒したという事実は残念ながら変えることができませんので,転倒歴というのは転倒しやすいかどうかをスクリーニングする上では重要なのですが,何らかの介入をしようとした場合にはあまり意味をなさないということになります.
注目すべきは赤字でお示しした部分です.これらは運動機能低下と呼ばれるものになりますが,重要な点はこれら運動機能低下に関しては運動を行うことで十分改善が得られるといった点です.
この結果をみると運動機能の中でも筋力・バランス能力・歩行能力を向上させることが重要だということがわかると思います.実際に介護予防事業の中でもこれらの運動機能をターゲットとして介入を行うことが重要となります.
参考文献
1)鈴木隆雄:一般治療と予防 転倒外来の実際.臨床医28:1830-1833,2002
2)Tinetti ME, et al:The patient who falls: “It’s always a trade-off”. JAMA303:258-66, 2010
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