近年使用が増えている3軸加速度計とは?

投稿者: | 2018年10月21日

ここ数年,学会等でも3軸加速度計を使用した歩行分析に関する発表が増えております.以前に比較して3軸加速度計も数十万円出せば手に入る時代となり,加えてi-phone等のスマホにも加速度計が内蔵されていることから,歩行分析に3軸加速度計が用いられることが多くなっております.今回は近年使用が増えている3軸加速度計についてご紹介したいと思います.

臨床歩行分析ワークブック

 3軸加速度計を用いた歩行分析 

近年,歩行分析機器の1つとして加速度計が用いられてきております.歩行動作中の周期的な質量重心の移動を加速度の変化として検知することで,歩容の異常を客観的に把握することが可能なわけです.加速度計は安価で,測定が簡便,しかも場所を選ばず,動作を拘束しないという優れた利点があり,実験室レベルにとどまらず臨床でも使用しやすいといった特徴があります.また加速度信号波形より,力(出力)・質(周波数)・時間(位相差)の側面を評価することができ,さらに歩行中の加速度計信号波形に処理を加えることにより,歩容を定量化することができます.このような評価方法は,理学療法の臨床において有益な客観的指標の一助になると考えられます.当然ながら加速度計は万能な歩行分析機器ではなく,さまざまな欠点がありますので,加速度計の利点と欠点を考慮したうえで,測定を実施することが重要となります.

 

 加速度とは? 

そもそも加速度とは何でしょうか?ニュートンの運動の法則(第2法則)によれば,加速度と「ある物体が外部から力Fを受ける時,その力の方向に,力Fの大きさに比例し,物体の質量mに反比例する加速度aを生じる」と説明されております.すなわち数式で表すと「F=ma」となるわけです.この式を置き換えると,「対象物のある一定時間における速度変化量」と解釈できます.例えば,自動車に乗っている時にアクセルを踏んで自動車が加速するわけですが,この際に体が後ろへ押しつけられるような感覚を感じたことはありませんか?この自動車に乗っている時に後方へ押しつけられるような力が加速度であると考えていただければよいと思います.高齢者の日常生活の活動のようにゆっくり速度が変化し,ゆっくりと速度が上がるような場合には,加速度は小さいので体が押されるような感覚を感じることは少ないと思います.しかしながら歩行中に急に速度を上げるなどした場合には,加速度が高くなるため,体が後方へ押しつけられるような力を感じることができるでしょう.つまり加速度というのはある時間内に速度変化が少なければ小さく,急に速度が速くなると大きくなると考えることができるでしょう.

 

 スマホにおける加速度計 

最近のスマートフォンにはほとんどの機種で加速度センサーが内蔵されており,さまざまな機能に生かされているわけですが,一般的な機能として「画面の自動回転機能」があります.これはスマートフォンを横に回わすと画面がそれに対応して回転してくれる機能です.これは加速度センサーで重力加速度を計測して画面を変換しているのです.重力加速度というのは,物体が落下している時にどれだけ加速するかといった指標であり,「重力加速度g=9.8m/sec」で表されます.この重力加速度を利用して,スマートフォンが縦になっているか,横になっているか判別しているわけです.さらにはスマートフォンのアプリには身体活動量を計測するアプリがあると思います.身体活動量を計測するアプリでも,この加速度計が用いられております.従来の単純な歩数だけではなく,加速度計から計測された運動強度を用いて,より正確に運動強度別の身体活動量を算出することが可能となっており,運動強度に応じて消費エネルギー量も算出できるといったわけです.

 

 加速度計を用いた動作分析 

理学療法の分野では加速度計を歩行分析機器して使用した報告が多いです.加速度計を使った歩行分析では,身体に加速度計を装着し,歩行動作中の周期的な重心の移動を加速度の変化として検知することで,歩容の異常を客観的に把握することが可能となります.われわれ理学療法士の主観的な歩行分析に加えて,加速度計を用いた客観的な評価が加わればより歩行分析の質が高まることは言うまでもありません.客観的歩行分析の代表的な方法としては,赤外線カメラや床反力計を用いた3次元動作解析装置のしようが一般的となっており,測定誤差の少ない高精度な歩行分析が可能ではありますが,非常に高価であり,測定環境が限定されていることから,実験室レベルで用いられることが多く,臨床的に簡便に使用しやすい状況ではありません.一方で加速度計には安価で,測定が簡便,しかも場所を選ばず,動作を拘束しないという優れた利点があります.

 

 歩行分析における滑らかさや動揺性の定量化 化 

歩行中の体幹における加速度信号に波形解析を加えることで,体幹の動揺性や滑らかさを定量化することができます.いくつかの基礎研究によると,歩行の円滑性(滑らかさ)の低下は5Hz以上のスペクトラムの増加として現れるとされております.よって5Hz以上の高周波スペクトラムの総和の基本周波数スペクトラムに対する比を滑らかさの指標とすることができるわけです.さらに加速度計から得られた歩行の円滑性が低い高齢者ほど転倒しやすいことも明らかにされております.

また体幹の加速度信号に二乗平均平方根(RMS: Root Mean Square)を加えて解析することで,動揺性の指標とすることができます.RMSは値が大きいほど,動揺性が大きい歩行であると解釈できます.注意すべき点として,体幹加速度のRMSは歩行速度によって影響を受け,その2乗に比例するとされているため,解析を行う際はRMSを歩行速度の2乗値で除して正規化する必要性があります.加速度計の設置位置に関してもさまざまな検討がなされておりますが,第3腰椎付近に設置するのが一般的です.第3腰椎は,比較的に体重心に近く,体重心と平行移動すること,さらに水平回旋が小さいため重心加速度を最も反映するとされております.これまでにも3軸加速度計から得られたRMSが,高齢者・不整地糖尿病性ニユーロパおチー患者・変形性股関節症患者で健常者のRMSに比較して有意に大きいことが明らかにされております.一方で注意が必要なのは,歩行時の体幹加速度から算出される歩行指標は歩行能力を包括的に評価しているにすぎません.最終的にはわれわれ理学療法士が歩容を定性的に分析し,歩行周期のどの時期に異常があるか,何が原因かを明らかにする必要があります.

足の機能解剖と歩行分析〜下肢からみた動きと理学療法の展開〜[理学療法 ME202-S 全4巻]

 加速度計による分析の限界 

加速度センサーにおける歩行分析の限界は,固定された空間が座標軸となるモーションキャプチャーなどの画像方式と異なり,座標軸がセンサー自体の移動や回転で変化するめ,動作中は常に軸が移動している状態であり,空間上で正確に重心変化を捉えているとは言えない点です.また脊柱の変形や骨盤の傾斜などには注意が必要であり,測定者の技術不足により設置部位がずれることによって空間上の左右・前後・垂直軸と加速度センサーの軸が一致しない場合もあり,加速度データの解釈に注意が必要となります.さらには床反力は体幹の動きがなくても,四肢や頭部の動きがあれば,その作用点やベクトルが変化するわけですが,体幹に装着した加速度センサーでは,その変化を捉えきれません.現在,一般に販売・使用されている加速度解析の専用ソフトウェアは,ほとんどがオプションとして扱われており,計測後の加速度信号のデータ解析は使用者や研究者が独自に行う必要があります.またデータ解析による歩行評価指標を取得するには,信号波形解析に知識と習熟が必要であり,素人にはなかなか骨の折れる作業です.このように加速度計にはいくつか限界もありますので,こういった加速度計の欠点を踏まえた上で,結果の解釈をする必要があります.

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