ちょっとした歩行指導で変形性膝関節症例の膝痛を軽減できる

投稿者: | 2018年10月16日

変形性膝関節症例は膝関節内側の疼痛を訴えられることが少なくありません.膝関節内側の疼痛に関連する要因として,以前にもご紹介した歩行立脚初期におけるlateral thrustが挙げられます.Lateral thrustを考える上では膝関節内反モーメントを減少させる必要があります.膝関節内反モーメントを軽減させる方略としては,膝関節装具を装着する方法や外側楔状板に代表されるような足底挿板を使用するといった方法が考えられますが,ちょっとした歩行指導によっても簡単に膝関節内反モーメントを軽減させ,膝関節痛を軽減させることができます.今回は変形性膝関節症例の膝関節痛を軽減させるための歩行指導について考えてみたいと思います.

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 変形性膝関節症例における膝関節内反と疼痛 

変形性膝関節症を内反なし群・動的内反群・静的内反群・静的内反+動的内反群の4類型に分類し歩行時の疼痛との関連を調査した報告によると,歩行時痛は静的内反+動的内反群との関連が最も強く,次いで動的内反群との関連が強いことが明らかにされております.すなわち内反変形が強く,さらに歩行時にlateral thrustが出現する症例が最も疼痛が強いということになります.一方で静的に内反変形が著しい症例であっても動的な内反運動が少ない症例においては,荷重時痛はそれほど大きいものではないと考えられます.X線における内反変形と疼痛については関連が無いといった点については,以前の記事でもご紹介いたしましたが,やはり疼痛を考える上では,立脚期の膝関節内反モーメントを減少させることと,動的内反運動の原因となる脛骨の外側方向への不安定性を改善することが最も重要であると考えられます.

 

 膝関節のメカニカルストレスを軽減させるための理学療法 

変形性膝関節症例の歩行は,さまざまな運動学的特徴を有しており,その特徴は変形性膝関節症の重症度や変形性膝関節症進行のリスクと関連し,膝関節のメカニカルストレスを軽減させるための代償的な運動戦略と考えられております.近年,変形性膝関節症例の膝関節内反モーメントを軽減させるための運動戦略を用いた歩行様式の変更が注目されております.

現在のところ,歩行指導の有効性が示されたものとしては,①歩行立脚側への体幹側屈,②股関節の内旋,③膝関節の内側への移動(内側スラスト),④歩行スピードの減少,⑤健側での杖の使用,⑥足部内転(toe-in)歩行,⑦足部外転(toe-out)歩行が挙げられます.しかしながら現在のところ,この歩行指導の有効性については変形性膝関節症の重症度や症状に合わせて,どういった歩行指導が有効であるかは明らかにされておりません.また膝関節内反モーメントを軽減させる歩行パターンであっても,膝関節以外の関節に対する悪影響やバランスの問題も考えられます.ここからは歩行指導と膝関節内反モーメントに関するエビデンスについて紹介し,その有用性に関して考えてみたいと思います.

 

 立脚側への体幹側屈 

歩行立脚期に患側の立脚側へと体幹を側屈することで,前額面上での身体重心が立脚肢へと移動し床反力ベクトルの方向が変化し,膝関節におけるレバーアーム長が短くなることで膝関節内反モーメントが軽減することが明らかにされております.変形性膝関節症例においては,歩行指導をしなくともDuchenne兆候が出現する場合が少なくありませんが,このDuchenne兆候は膝関節内反モーメントを軽減させる代償的な戦略なわけです.この立脚側への体幹側屈は膝関節内反モーメントを軽減させるといった意味では非常に有効なわけですが,他関節に加わるメカニカルストレスも大きく,さらには体幹側屈に伴う動的バランスに影響を与える可能性がにも注意する必要があります.

 歩隔を拡大 

歩行立脚期に患側股関節を外転し歩隔を拡大することで膝関節内反モーメントを軽減することができます.歩隔を拡大することで床反力作用点が外側に移動し,レバーアームが減少するため内反モーメントが軽減できると考えられます.歩隔を縮小するとモーメントアームが長くなるため,膝関節内反モーメントが増大してしまいます.

 股関節の内旋 

股関節の内旋による歩行は,通常歩行と比較して膝関節内反モーメントを軽減させることが明らかにされております.股関節内旋の増加を促進する歩行様式の変更の悪影響の可能性についてはこれまで報告はありませんが,patellar trackingの変化による膝外大腿関節痛を出現させる可能性が考えられます.

 

 膝関節の内側スラスト 

膝関節の内側スラストは.歩行の立脚期に膝関節を内側に方向づけることによって,動的な膝関節アライメントを変更させる戦略です.Lateral thrustと変形性膝関節症の進行リスクとの関連をふまえた上で,その理論を応用した戦略なわけです.膝関節の内側スラストについても膝関節の内反モーメントを軽減させることが明らかにされており,その有用性が確認されているわけですが,この内側スラストについては運動の複雑さが課題であり,他の歩行修正に比較しても最も課題として難しい戦略となります.

 

 歩行スピードの減少 

歩行スピード度の減少によっても膝関節内反モーメントを軽減させることができることが明らかにされております.歩行スピードは身体重心加速度の変化により膝関節内反モーメントに影響を及ぼす可能性があり,床反力の大きさに影響します.そのため単純に歩行スピードを減少させれば,膝関節内反モーメントを軽減できるわけです.しかしながら歩行スピードの減少によって,全体的な身体機能や日常生活に悪影響を及ぼす可能性があり,クライアントの状況をふまえた上で導入する必要があると思います.さらに歩行速度の減少に伴って,立脚時間が長くなりますので,結果的に膝関節内反モーメントの力積値が増大し,膝関節痛を増悪させる可能性も考えられますので注意が必要です.

 

 健側での杖の使用 

健側での杖の使用もまた膝関節内反モーメントを軽減させることが明らかにされております.一方で患側での杖使用は,歩行立脚初期の膝関節内反モーメントを増大させることが明らかにされております.したがって患側での長期間の杖使用は,変形性膝関節症を進行させてしまう可能性があります.そのため適切な使用法に関する指導が必要となりますが,健側での杖使用によって一側の膝関節内反モーメントを軽減させることができたとしても,対側の膝関節に運動力学的な悪影響を及ぼす可能性がもあるため,症例毎に杖使用について熟考する必要があると考えられます.

 足部内転toe-in歩行 

Toe-in歩行は,通常歩行と比較して膝関節内反モーメントを軽減させることが明らかにされております.足部内転位によって歩行の立脚初期に,足圧中心の外側移動に伴いレバーアーム長が短縮することで,膝関節内反モーメントが軽減できると考えられております.

 

 どの歩行修正が最も有効か 

どういった歩行修正が最も有効かについてもいくつか検討がなされております.この研究によると内側スラストと体幹傾斜による内反モーメントの軽減効果が大きいとされておりますが,内反モーメントの軽減に関しては症例によっても有効な歩行修正とそうでない歩行修正にバラツキが生じる可能性も考えられますので,症例に応じた歩行指導を行うことが重要であると考えられます.

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今回は変形性膝関節症例の膝関節痛を軽減させるための歩行指導について考えてみました.今回ご紹介した歩行指導によって簡単に膝関節内反モーメントを軽減させ,膝関節痛を軽減させることが可能ですが,多関節への影響や歩行のバランスといった視点でも歩行修正が与える影響を検討した上で,歩行指導を行う必要があるでしょう.

 

参考文献
1)Simic M: Gait modification strategies for altering medial knee joint load: a systematic review. Arthritis Care Res63:405-426, 2011
2)Hunt MA, e tal : Lateral trunk lean explains variation in dynamic knee joint load inpatients with medial compartment knee osteoarthritis. Osteoarthritis Catriligage16:591-599,2008
3)Barrios JA,et al : Gait retraining to reduce the knee adduction moment through real-time visual feed-back of dynamic knee alignment.Biosci43:2208-2213,2010
4)Robbins SM et al :The effect of gait speed on the knee adduction moment depends on wave form summary measure. Gait Posture30:543-546,2009
5)Kemp G,et al: Reducing joint loading in medial knee osteoarthritis: shoes and canes. Arthrits Reumathol59:609-614,2008

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