読者の皆様も,日々の理学療法・作業療法(リハビリテーション)を行う際に,血圧や脈拍を測定してリスク管理に努められていると思います.
でも血圧ってそもそも何かちゃんと説明できますか?
健康志向が高まり,収縮期血圧が200より高ければ血圧が高いとか,拡張期血圧が120より高ければ血圧が高いといったような話は素人でもわかっていることです.
われわれ専門職は血圧が高い場合,あるいは低い場合に,なぜ血圧が低下しているのか,なぜ血圧が上昇しているのかを考えることが重要です.
そのためには血圧が何を意味するのかを十分理解しておく必要があります.血圧の基準値についてはご存知の方も多いと思いますので,今回は省略しますね.
理学療法リスク管理マニュアル第3版 [ 聖マリアンナ医科大学病院 ]
目次
血圧とは?
血圧というのは一般的には動脈内圧を指します.
血圧は心拍出量と末梢血管抵抗の積によって規定されるものです.
これが非常に重要です.心拍出量というのは1回拍出量と心拍数の積で表されますので,血圧=1回拍出量×心拍数×末梢血管抵抗といった数式が成立します.
実はこの数式をおさえておくと,非常に役に立つのです.
ここからは臨床上でも遭遇機会の多い場面を想定し,血圧が上昇する原因,血圧が低下する原因について考えてみたいと思います.
等尺性収縮を行うと血圧が上がった
血圧=1回拍出量(↑)×心拍数×末梢血管抵抗(↑↑)
等尺性収縮を行うと収縮した筋肉によって血管が圧迫され,末梢血管抵抗が高くなります.そのために血圧が上昇してしまうのです.
有酸素運動ではあまり血圧が上がらない
血圧=1回拍出量(↑)×心拍数(↑)×末梢血管抵抗(↓)
有酸素運動を行うと活動する筋肉が増えますので,心臓は筋肉への血液の供給量を増加させる必要があります.
そのため1回拍出量も心拍数も増加します.
一方で有酸素運動を行っていると体温が上昇します.
体温が上昇すると熱を外に逃がすために,末梢血管が拡張しますので,末梢血管抵抗が減少します.
そのため有酸素運動では血圧があまり上昇することなく運動を行うことができるのです.
お風呂で浴槽から立ち上がったら立ちくらみがした
血圧=1回拍出量(↓)×心拍数×末梢血管抵抗(↓↓)
入浴すると体温が上昇しますので熱を外に逃がすために,末梢血管が拡張しますので,末梢血管抵抗が減少します.
さらに末梢血管が拡張した時間が長く続くと,静脈還流量(心臓へ戻る血液量)が減少し,結果的に1回拍出量が減少してしまいます.
このような状況で立ち上がると,血液が下肢へ移動しさらに静脈還流量が減少し,血圧が下がってしまいます.
そのため脳への血流量が少なくなって立ちくらみが起こるのです.
トイレで介助をしてリハビリに行こうと思ったら意識レベルが低下した
血圧=1回拍出量(↓)×心拍数×末梢血管抵抗
通常は排尿や排便程度の水分損失では意識レベルが低下するほどの血圧低下が起こることは少ないのですが,元々循環血液量が少ない場合には注意が必要です.
1回に大量に排便するなどした場合には,それが原因で全身の水分量が減少し,1回拍出量が減少してしまうことで血圧が下がってしまうことがあります.
入院したらすぐに血圧も下がり,体重が1kg減ったと聞いた
整形外科へ入院するような内科的に問題の無い普通食を摂取している方でも,入院したら数日で体重が1kg程度減ったという人は少なくありません.
これは脂肪が燃焼されて体重が減少したというよりも,循環血液量が減少している点に注意が必要です.
入院食って塩分量が制限されておりますので,血中の塩分濃度も低下します.
そうすると血液中に水分を蓄積しておく必要がなくなりますので(塩分量が多い場合には血液中の塩分濃度を薄めるために水分を蓄えておく必要があります),排泄する水分量が増え,結果的に循環血液量が減少し,体重が減少するのです.
またこの時には循環血液量の減少に伴って,1回拍出量も低下しますので結果的に血圧も低下します.
これが減塩によって血圧が低下するメカニズムです.
血圧=1回拍出量(↓)×心拍数×末梢血管抵抗
このように血圧=1回拍出量(↓)×心拍数×末梢血管抵抗の数式を理解しておけば,なぜ血圧が上昇したのか,なぜ血圧が低下したのかを考えることができます.
また降圧薬や昇圧薬の作用機序を理解する上でもこの数式が重要となります.
この数式を理解しておけば,その薬がどこに働きかけて血圧を調整しているのかがわかります.
血圧の評価法
血圧の測定方法には動脈カテーテルなどによる直接法とマンシェットを用いた間接法があります.
理学療法士・作業療法士が行えるのは間接法による血圧促手になりますが,一般的な計測部位は上腕動脈です.
透析シャントが造設されている場合や重要な薬剤が点滴投与されている場合には対側で評価し,両側ともに計測困難の場合には大腿動脈で計測する方法が一般的です.
血圧は重力の影響を受けますので,計測時の姿勢は座位を基本とし,マンシェットを巻く位置は心臓の高さと水平になるようにします.
マンシェットの巻き方が緩いと,強く加圧する必要が出てきますので,その分血圧が高めに測定されます.マンシェットは可能であれば体表からきっちりと巻くことが重要です.
今回は理学療法士・作業療法士が測定する機会の多い血圧についてご紹介いたしました.
血圧の基準値を知っておくことも重要ですが,それ以上に血圧が何か,血圧が上昇したり低下した場合に何が原因かを考えられるようになっておくことが重要です.
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