THA例に特徴的な姿勢~こんな姿勢を見逃すな~

人工股関節全置換術
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前回の記事では変形性股関節症例と人工股関節全置換術例における理学療法の根本的な相違についてご紹介いたしました.

今回は人工股関節全置換術後に生じやすい姿勢とその影響について考えてみたいと思います.

 

 

 

目次

 人工股関節全置換術例に特徴的な臥位姿勢 

人工股関節全置換術術後(後方アプローチ)には股関節屈曲・内転・内旋,膝関節屈曲・外反姿勢を呈することが少なくありません.

なぜこのような姿勢になるかという話ですが,1つは股関節が伸展することによって関節内圧の上昇を回避するためです.

特に人工股関節全置換術の原因となる変形性股関節症例では術前から矢状面上での臼蓋被覆を増加させるために股関節伸展を回避している症例が少なくありません.

また後方アプローチの場合には,こういった姿勢は創部への圧力を軽減する戦略でもあります.

 

このような姿勢が続くと,大腿筋膜張筋に加え腰椎過前彎により腰背筋群が持続的に活動している状態となりますので,これらの筋群に二次的な疼痛が出現しやすい状況となります.

また股関節内転-内旋を伴う股関節屈曲運動というのは股関節運動軸から外れた運動であり,大腿骨コンポーネントのネック部分が臼蓋コンポーネント前壁に衝突しインピンジメントを引き起こす可能性もあります.

 

術直後にこういった姿勢を呈するのはある程度やむをえませんが,術後数週が経過してもこのような姿勢パターンを取りやすいので,理学療法では股関節伸展可動域の改善を図るとともに,臥位姿勢で術側の腰部・殿部へ荷重を促すことが重要です.

 

 

 

 

 

 人工股関節全置換術例に特徴的な座位姿勢 

人工股関節全置換術術後(後方アプローチ)には創部の疼痛を回避するため,また術側股関節屈曲可動域制限によって,非術側へ重心が偏位していることが少なくありません.

こういった症例に側方リーチを使って術側の殿部へ荷重を移そうとしても,術前からの体幹機能低下が残存していると,術側へのリーチで立ち直りが起こらない場合が少なくありません.こういった坐位姿勢における立ち直り反応の欠如は,歩行立脚期における体幹術側傾斜(Duchenne兆候)へとつながってしまいます.

歩行時にDuchenne兆候が出現する症例に関しては,まず坐位における重心移動で頭部・体幹の立ち直り反応が出現するかを確認すると,起こっている体幹傾斜が体幹機能の問題なのか,股関節以遠の問題なのかを分別することができるので有用です.

体幹機能の問題であればまずは坐位で術側へ重心移動を行った際に立ち直り反応が出現するように,リーチ動作練習を行う必要があります.

 

 

 

 

 

 人工股関節全置換術例に特徴的な立ち上がり動作 

人工股関節全置換術後に前述したような坐位姿勢をとっていると立ち上がり動作にもさまざまな問題が出てしまいます.

上図のように術側殿部へ荷重が偏位していると非術側下肢優位の立ち上がりとなってしまいます.

実は人工股関節全置換術後,数年経過した後に非術側の膝関節症を併発する割合が3割を超えるのです.

これはものすごく多い数ですよね.

実際に臨床でも人工股関節全置換術後には非術側膝関節の人工関節全置換術を施行される方が多いのですが,この原因の一つがこういった非対称性の立ち上がり動作によるものだと考えられております.

 

 

高齢者は1日に約65回(1年で2万回)も起立-着座を行うため,非対称性の動作を繰り返すことで非術側の膝関節の力学的負荷が増加してしまいます.

術後のみならず術前からの非術側優位な非対称性の荷重動作がこういった非術側の変形性膝関節症の原因となりますので,術前はもちろん術後早期に対称性の改善を図ることが他関節の長期的予後を考える上では重要だと言えるでしょう.

 

 

 

参考文献
1)Umeda N, et al: Progression of osteoarthritis of the knee after unilateral total hip arthroplasty. Arch Orthop Trauma Surg 129: 149-154, 2009
2)Egerton T, et al: Temporal characteristics of habitual physical activity periods among older adults. J Phys Act Health 6: 664-650, 2009

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