人工股関節全置換術の原因となる疾患の代表は変形性股関節症ですが,人工股関節全置換術の原因となる疾患の中には変形性股関節症以外の疾患も含まれます.原因疾患毎に特徴がありますので,原因疾患の病態を理解してから術後の理学療法を行う必要があります.人工股関節全置換術の原因となる疾患には変形性股関節症,大腿骨頭壊死症,急速破壊型股関節症,関節リウマチなどがあげられます.変形性股関節症については以前にご紹介いたしましたので,今回はその他の大腿骨頭壊死症,急速破壊型股関節症,関節リウマチの病態について,術後の理学療法と合わせて考えてみたいと思います.
目次
大腿骨頭壊死症
大腿骨頭壊死症は大腿骨頭への血行が遮断されることにより生じる疾病であり,原因が不明なものを「特発性大腿骨頭壊死症」と呼びます.膠原病やネフローゼ症候群といった疾病の治療の際に用いられたステロイド剤やアルコールの多飲が原因になるとも言われています.
原因がある大腿骨頭壊死症としては,大腿骨頚部骨折後に起こる外傷性大腿骨頭壊死症や大腿骨頭辷り症に伴うもの,放射線性,減圧症(潜水作業に伴うもの)などが報告されております.これら原因が明らかな場合には「続発性(二次性)大腿骨頭壊死症」と呼ばれます.
外傷による大腿骨頭壊死症としては,大腿骨頸部骨折後の大腿骨頭壊死症が代表的です.大腿骨頸部骨折の分類については以前にご紹介いたしましたが,大腿骨頸部骨折は大きく分類すると非転位型骨折と転位型骨折の分類できます.通常,非転位型骨折には骨接合術が,転位型骨折には人工骨頭置換術が適応されるのですが,場合によっては転位型骨折でも骨接合術が適応される場合があります.転位型骨折の場合には,骨折によって骨頭への血流が遮断されてしまいますので,骨頭壊死がおこる可能性が非常に高いため,人工骨頭置換術が施行されるわけです.転位型骨折で骨接合術が施行される場合や,非転位型骨折であっても大腿骨頭への血行が十分でない場合には,将来的に大腿骨頭壊死症が出現する場合があります.大腿骨頭壊死症が生じるのは骨折の治療(手術)後,6カ月~数年経過してからといった場合が多いので,大腿骨頸部骨折後に自宅退院するタイミングでは無症状であっても,退院後に股関節の疼痛が出現してといったケースが見られます.最近では俳優の坂口憲二さんが大腿骨頭壊死症に罹患したということで話題となりました.
急速破壊型股関節症
65~70歳以上の高齢者の明らかな構造的異常がない,あるいは構造的異常があってもごく軽度の寛骨臼形成不全を有する股関節症が,半年~1年といった非常に短期間で増悪する股関節症を急速破壊型股関節症と呼びます.本疾患の明確な診断基準はありませんが,発症から半年~1年以内に股関節破壊が進行した場合に,「急速破壊型股関節症」と診断されます.現在のところ発症メカニズムは明らかになっておりませんが,本邦でも急速破壊型股関節症と診断される方の数は年々増加していると言われております.
関節リウマチ
関節リウマチが他の疾病と最も異なる点は,関節リウマチは全身性の疾患であるといった点です.股関節以外にも手指,手関節,膝関節等の他関節に変形や疼痛が出現していることも少なくありません.また腎炎・肺炎・リンパ腺腫といった関節外症状が出現することも多く,全身に様々な影響が出現するといった点に注意が必要です.
術後経過の違いは?
術後理学療法を行う上では,これらの原因疾患の相違が人工股関節全置換術後の経過にどのような影響を及ぼすのかが重要となります.もちろん個人差はあるわけですが,変形性股関節症・大腿骨頭壊死症・急速破壊型股関節症の中で,最も術後経過が不良なのはどの疾病でしょうか?
答えは「変形性股関節症」です.
変形性股関節症と大腿骨頭壊死症・急速破壊型股関節症の大きな相違は罹患期間です.特に寛骨臼形成不全を基盤とする二次性股関節症では罹患期間が非常に長く,幼少期から股関節変形に伴う可動域制限や脚短縮が生じている場合も少なくありません.罹患期間が長いと当然ながら筋短縮に伴う関節拘縮も高度になっていることが多く,加えて代償的な姿勢が長期化していることから術後も隣接関節の変形や疼痛の改善に期間を要することが少なくありません.大腿骨頭壊死症と変形性股関節症例における人工股関節全置換術後の関節可動域を比較した研究でも変形性股関節症例の術後関節可動域が有意に不良であり,靴下着脱動作の獲得率も低かったと報告されております.以前の記事でもご紹介いたしましたが,一次性股関節症例と二次性股関節症例でも術前の関節拘縮の程度に相違があることが予測され,原因疾患や術前の病態を考慮した上で術後理学療法を行う必要があると考えられます.
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参考文献
1)木下一雄, 中島 卓三, 他: 大腿骨頭壊死症と変形性股関節症における人工股関節全置換術前後の股関節可動域および靴下着脱能力の比較検討. 理学療法学 41: 1348, 2014
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