理学療法士の間でも介護予防の必要性が叫ばれて久しいですが,ここ数年で介護予防に関連する様々なキーワードが出てきております.
フレイル・ロコモティブシンドローム・サルコペニアという用語はテレビ等でも耳にする機会が多い言葉ですが,けっこう言葉の定義をきちんと理解できていない方が多いと思います.
今回はフレイル・ロコモティブシンドローム・サルコペニアといった概念について,それぞれの違いを整理してみたいと思います.
目次
フレイル
フレイルというのは,海外の老年医学の分野で用いられている「Frailty」に日本語訳があてられたものです.
「Frailty」を直接的に日本語訳すると「虚弱・老衰」などと訳されるわけですが,運動あるいは栄養介入によって改善する可能性があるといった意味を持たせるため,あえて「虚弱・老衰」といった訳を用いず,「フレイル」と称することとなったようです.
フレイルの基準には,さまざまなものがありますがFriedが提唱した基準が用いられることが多いです.
Friedの基準には5項目あるのですが,3項目以上該当するとフレイル,1項目または2項目だけに該当する場合にはフレイルの前段階であるプレフレイルと判断します.
Friedによるフレイルの基準
- 体重減少:意図しない年間5kgまたは5%以上の体重減少
- 疲れやすい:何をするのも面倒だと週に3-4日以上感じる
- 歩行速度の低下
- 握力の低下
- 身体活動量の低下
フレイルという言葉の意味を考える時に重要なのが,フレイルというのは「身体的フレイル」・「精神心理的フレイル」・「社会的フレイル」に分類できるという点です.
「身体的フレイル」というのは,筋力が低下したり歩行速度が低下したりと,身体機能の低下を表す用語で,多くの方はフレイルというとこの「身体的フレイル」を想像されると思いますが,「精神心理的フレイル」・「社会的フレイル」を含意する概念であることに注意が必要です.
「精神心理的フレイル」というのは認知機能低下や抑うつなどがその代表的な症状でありますが,加齢に伴う精神心理的な機能低下をさします.
また「社会的フレイル」というのは閉じこもり等に代表される社会交流が少ない状況を指します.
このようにフレイルというのはかなり幅広い概念だということが分かります.
ロコモティブシンドローム
ロコモティブシンドローム(locomotive syndrome)というのは,2007年に日本整形外科学会によって提唱された概念ですが,「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」と定義されます.
主には骨・関節・筋肉の機能低下を表す言葉になりますが,骨粗鬆症による骨量減少・変形性関節症による関節痛・筋力低下等がその代表的な症状です.
先ほどのフレイルに比較すると,身体的フレイルの中でもさらに運動器の機能低下に焦点を絞った概念といえるでしょう.
ロコモの診断には様々な評価が用いられておりますが,運動器の衰えを7つの項目でチェックできる「ロコチェック」を使用すれば,一般の方でも簡単に運動器の機能低下を評価することが可能です.
サルコペニア
サルコペニアとは加齢やなんらかの疾病によって筋肉量が減少する現象を指します.
サルコペニアという用語は実は造語で,ギリシャ語で筋肉を表す「sarx」と喪失を表す「penia」を組み合わせた用語です.
サルコペニアの基準としてよく用いられるのはEWGSOP(European Working Group on Sarcopenia in Older People)によって作成された基準ですが,欧米人の基準をアジア人にそのまま適用するのは問題があるということで,日本人を含むアジア人のための診断基準を提唱されております.
この基準ではヨーロッパの基準と同様に握力・歩行速度いずれかの低下を有し,筋肉量の減少が認められる場合にサルコペニアと診断することとされております.
アジア人と欧米人では体格や生活習慣も異なりますので,握力と筋肉量についてはアジア人独自の基準が定められております.
握力は男性26 kg未満,女性18 kg未満を握力低下とし,筋肉量についてはDXAでは,男性 7.0 kgm2未満,女性 5.4 kgm2未満,BIAでは男性7.0 kgm2未満,女性5.7kgm2未満が筋肉量低下の基準とされております.
ここで重要なのはサルコペニアというのは先ほどのロコモティブシンドロームが対象とした運動器の機能低下の中でも,筋肉に焦点を当てた基準であるといった点です.
また筋肉の中でも筋力ではなく,筋量に着目した概念であるといった点にも注意が必要です.
ちなみに筋力低下に関しては「ダイナペニア」といった用語が用いられることが多いです.
ここまでのフレイル・ロコモティブシンドローム・サルコペニアといった概念を図にまとめるとこんな感じです.
このようにそれぞれが対象とする範囲が異なりますので,これらの用語を使用する時には,どういった概念なのかを改めて確認することが必要です.
参考文献
1)Fried LP, Tangen CM, Walston J, Newman AB, Hirsch C, Gottdiener J, et al.: Frailty in older adults: evidence for a phenotype. J Gerontol A Biol Sci Med Sci 2001; 56: M146―156.
2)Chen LK, Liu LK, Woo J, Assantachai P, Auyeung TW, Bahyah KS, et al.: Sarcopenia in Asia: consensus report of the asian working group for sarcopenia. J Ame Med Dir Assoc 2014; 15: 95―101.
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