変形性股関節症と臼蓋被覆~これが理解できないと変形性股関節症の理学療法は始まらない~

変形性股関節症
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前回は変形性股関節症例病期と病期進行を予防するために重要な要因についてご紹介させていただきました.前回の記事でも話に出ましたが,変形性股関節症例の理学療法を考える上では,臼蓋被覆の理解を抜きにしては話はできません.そこで今回は変形性股関節症例における臼蓋被覆について考えてみたいと思います.

 

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目次

 矢状面上における臼蓋被覆 

まずは矢状面上における股関節の構造について考えてみたいと思います.

通常,関節窩(寛骨臼)は楕円に近い半球状になっており,後面部は深い作りになっていて骨性支持が高くなっているのですが,前面部は浅く骨性支持が低くなっています.

構造上,大腿骨頭前面の臼蓋被覆率が低いわけですが,骨盤を前傾させることで臼蓋被覆を増加させることができます.

上の図は矢状面における寛骨臼と大腿骨頭の関係を示したものですが,骨盤を前傾(股関節を屈曲)すると関節の接触面積が増加して,股関節は安定します.

一方で骨盤を後傾(股関節を伸展)すると関節の接触面積が減少して,股関節は不安定となります.

変形性股関節症の予防を目的として理学療法を行う場合には,矢状面上における骨盤前傾位を獲得し,臼蓋被覆を増加させることが重要になると言えるでしょう.

一方で骨盤前傾位による腰椎前彎姿勢は腰痛の原因にもなりますので,適度な前彎姿勢を作っていくことが重要となります.

 

 矢状面上における臼蓋被覆の特徴 

若年者に多い寛骨臼形成不全例では臼蓋被覆を代償するために,骨盤を前傾した姿勢を呈していることが少なくありません.

一方で高齢者に多い一次性変形性股関節症例では脊椎の後彎変形に伴い,骨盤は後傾した姿勢を取っていることが多く,骨盤の後傾が変形性股関節症を進行させる一因になっているわけです.

健常例では臥位姿勢と立位姿勢における骨盤前後傾の変化量は5°程度とされております.

すなわち臥位から立位になると健常例であっても骨盤が5°程度後傾するわけですが,近年の研究では変形性股関節症が進行する症例の多くは,臥位から立位における骨盤後傾角度が大きいことが報告されております.

つまり変形性股関節症の進行を予防するためには立位における骨盤後傾姿勢を改善することが重要となります.骨盤後傾姿勢の原因としては腹筋群の機能低下やハムストリングスの短縮など,さまざまな原因が考えられますが,原因を明らかにしたうえでアプローチを行う必要があります.

加えて若年者に多い寛骨臼形成不全を基盤とする二次性変形性股関節症例においても,骨盤前傾により臼蓋被覆を代償するメカニズムが,何らかのきっかけで破綻することで,変形性股関節症が進行する可能性が考えられます.

臨床上多く見受けられるのは脊椎圧迫骨折や脊椎辷り症です.脊椎圧迫骨折によって胸腰椎が後彎すると,当然ながら骨盤の後傾角度は大きくなってしまいます.また脊椎辷り症を発症すると骨盤前傾により辷り症が増悪することになりますので,骨盤は後傾方向に動きます.すると股関節の臼蓋被覆は減少し,結果的に変形性股関節症が悪化してしまうことになります.

 

 FAIと臼蓋被覆 

骨盤の後傾は臼蓋被覆を減少させてしまうわけですが,あえて骨盤の後傾を誘導して臼蓋被覆を減少させるアプローチが有効な場合もあります.変形性股関節症ではこういったケースは少ないですが,寛骨臼の過剰被覆が引き起こすFAIの場合には,むしろ骨盤の腰椎の柔軟性を向上させることで骨盤を後傾方向に誘導することが,除痛を図る上で有効となります.

 前額面上における臼蓋被覆の特徴 

 

変形性股関節症例(特に寛骨臼形成不全を起因とする二次性股関節症)においては,大腿骨頭の外上方偏位が前額面上における大きな特徴になります.変形性股関節症の進行を予防する上では,この外上方偏位を予防することが重要となります.

  • 股関節外転位:臼蓋と大腿骨頭の求心力が増し,関節が安定します
  • 股関節中間位:臼蓋と大腿骨頭の求心性は中等度で,関節の安定性も中等度です
  • 股関節内転位:大腿骨頭を外上方へ偏位させる力が強くなります

変形性股関節症を予防するためには外転位で骨頭求心力を高める必要があります.

 

上の図は前額面における寛骨臼と大腿骨頭の関係を示したものですが,骨盤を対側挙上(股関節を外転)すると関節の接触面積が増加して,股関節は安定します.

一方で骨盤を同側挙上(股関節を内転)すると関節の接触面積が減少して,股関節は不安定となります.

変形性股関節症の予防を目的として理学療法を行う場合には,前額面上における股関節外転位を獲得し,臼蓋被覆を増加させることが重要になると言えるでしょう.

一方で骨盤挙上位による腰椎側屈姿勢は腰痛の原因にもなりますので,適度な側屈姿勢を作っていくことが重要となります.

 

 水平面上における臼蓋被覆の特徴 

臼蓋被覆を考える場合には,上述いたしました矢状面と前額面上における臼蓋被覆を考えることが多いですが,水平面上における臼蓋被覆を理解しておくことも重要です.

 

上の図は水平面における寛骨臼と大腿骨頭の関係を示したものですが,骨盤を同側回旋(股関節を内旋)すると関節の接触面積が増加して,股関節は安定します.

一方で骨盤を対側回旋(股関節を外旋)すると関節の接触面積が減少して,股関節は不安定となります.

変形性股関節症の予防を目的として理学療法を行う場合には,水平面上における股関節内旋位を獲得し,臼蓋被覆を増加させることが重要になると言えるでしょう.

いずれにしても腰椎レベルでの回旋可動域が不足していると十分な回旋運動が行えませんので,股関節のみならず腰椎レベルの窩洞性を獲得することも重要と言えるでしょう.

 

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今回は矢状面・前額面・水平面における臼蓋被覆について紹介させていただきました.臼蓋被覆を増加させることができれば変形性股関節症の進行予防に寄与することができるかもしれませんが,一方で代償的に出現した腰椎の前彎・側彎姿勢が新たな疼痛や機能障害を引き起こす場合も少なくありません.どちらを優先するかというのはケースバイケースで非常に難しい判断にはなりますが,介入前後で股関節はもちろん隣接関節の評価を合わせて行うことが非常に重要だと思います.

コメント

  1. […] 変形性股関節症と臼蓋被覆~これが理解できないと変形性股関節症の理学療法は始まらない~前回は変形性股関節症例病期と病期進行を予防するために重要な要因についてご紹介させて […]

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