前回の記事では脊椎圧迫骨折例の整形外科的治療をご紹介させていただきました.
今回は脊椎圧迫骨折例の立位姿勢について考えてみたいと思います.
姿勢については重心を脊柱に近づけた姿勢(顎を引いて脊椎を軽度伸展位とした姿勢)を保持すると,椎体への負担が少なくなりますので,立位でも意識的にストレスの少ない姿勢を保持させることが重要となります.
なるほど胸腰椎を伸展させればいいのかとお考えの方もおられるかもしれませんが,実は脊椎圧迫骨折例の姿勢を考える上では,胸腰椎を伸展させることだけを考えてもうまくいかないことが多いのです.
目次
Knee Spine Syndrome
左側の姿勢は両膝関節に屈曲拘縮がある,もしくは膝関節伸展筋力の低下によって膝関節を完全伸展できない場合です.
こういった場合に,胸腰椎を最大限に伸展させようとすると,重心線が支持基底面の後方へ大きく外れてしまいますので,姿勢を保持することが難しくなってしまいます.
つまり膝関節が屈曲しているために胸腰椎が屈曲してしまうことになります.
ですのでこういったケースの場合には,胸腰椎を伸展させるだけではなく,膝関節を伸展させるための理学療法アプローチも重要となります.
先ほどの例は膝関節屈曲によって胸腰椎が屈曲するといった例でしたが,逆のパターンも起こり得ます.
つまり胸腰椎が屈曲しているために膝関節が屈曲するといったパターンです.
左側の姿勢では胸腰椎が後彎姿勢を呈している例です.
こういった症例の場合,重心線を支持基底面内に投影させるために膝関節も屈曲してしまうわけですが,後彎変形を有する方に立位で膝関節を伸展するように指示すると,右側のように重心線が支持基底面前方へ外れてしまい,姿勢を保持することが難しくなります.
したがってこのような場合には膝関節を伸展させるためには胸腰椎の後彎姿勢を改善させることが重要となります.
このように胸腰椎と膝関節には密接な関係があり,
「膝が曲がれば腰が曲がる,腰が曲がれば膝が曲がる」という関係性にあるのです.
knee-spine syndrome の概念では,膝伸展制限が骨盤後傾や腰椎前弯減少を引き起こすといわれており,圧迫骨折と言えども全身を診ていくことが重要だと言えます.
胸腰椎の後彎変形は立位姿勢のみならず,歩行にも影響を及ぼします.
前述したように胸腰椎圧迫骨折に伴う胸腰椎鉤腕変形は膝関節屈曲姿勢の原因となります.
歩行時に膝関節が屈曲していると,Initial Contactにおける踵接地が困難となりますので,すり足歩行になってしまいます.転倒しやすいのは言うまでもありません.
さらにすり足を改善するために,股関節を屈曲してfoot clearanceを代償しようとすると,元々後方化した重心がさらに後方へ移動し,後方への回転モーメントが過大となるため,股関節屈曲による代償も困難となってしまいます.
そのためすり足を継続するほかなくなってしまうわけです.こういった歩容は高齢者の代表的な歩容の一つであり,老人性歩行と呼ばれます.胸腰椎の屈曲というのは様々な影響を及ぼすということがわかっていただけたと思います.
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参考文献
1)Harato K, Nagura T, et al.: A gait analysis of simulated knee flexion contracture to elucidate knee-spine syndrome. Gait Posture, 2008, 28(4): 687-692.
2) Murata Y, Takahashi K, et al.: The knee-spine syndrome. Association between lumbar lordosis and extension
of the knee. J Bone Joint Surg Br, 2003, 85(1): 95-99.
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