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リハビリの専門家である理学療法士からみる転倒予防の重要性
大腿骨近位部骨折をはじめとする多くの骨折は転倒によって起こっているわけですが,大腿骨近位部骨折の多くは骨脆弱性骨折と呼ばれる軽微な外力によって生じた骨折がほとんどです.
つまり自転車から転落したとか,階段から転落した,交通事故にあったといった強い外力を受けて骨折が起こったというよりも,歩いていて転倒したといった比較的小さな外力によって起こった骨折が多いのです.
こういった骨折は骨脆弱性骨折と呼ばれます.
またここ10年の国民生活基礎調査を見ると,転倒・骨折というのは要介護原因の10~15%を占め,要介護原因の第4位または5位に位置しており,要介護原因になる割合が高いことが明らかにされております.
転倒の予防だけでなく骨粗鬆症の予防が重要
大腿骨近位部骨折を減らすためには転倒を予防することはもちろんですが,最近特に重要視されているのは骨粗鬆症の予防・治療を積極的に行っていくことです.
骨粗鬆症って骨折するまで症状が全くありませんので服薬を継続できない場合が少なくありません.骨粗鬆症の治療薬を継続的に内服されていても,当然ながら転倒によって強い外力が加われば骨折してしまうわけなので薬を飲んでいたのに骨折したといった話しにもなってしまいます.
さらに整形外科医師の中でも骨粗鬆症治療を積極的に行っている医師は多くありませんので,実はこれが問題だったりします.
今回は一般の方にもわかるように高齢者の転倒・骨折に関していろいろな視点からご紹介させていただきたいと思います.
本邦における高齢化の推移
まずはわが国(日本)における高齢化の推移と転倒・骨折について考えてみたいと思います.
ここで申し上げるまでもありませんが,わが国は高齢社会に突入しておりまして,高齢化率つまり65歳以上の高齢者の割合が3割に迫ろうとしております.
今後も高齢化率はますます進行することが予測されておりまして,2040年には35%にも達すると言われております.もちろん高齢化率は地域によって差が大きいわけですが,都心部よりも地方における高齢化率は深刻で中には高齢化率が50%近い地域もあるほどです.
健康寿命と生命寿命
高齢化が進んでも安倍首相が掲げる1億総活躍社会のように元気な高齢者が増えれば特に問題はないわけですが,実際には健康寿命と生命寿命には約10年開きがあると言われておりまして,ほとんどの方が人生の最後の10年を何かしら病気を患ったり,介護が必要な状態で終えるというのが現実です.
それではどういった原因で高齢者が介護が必要な状態に陥ったかというところを見ていきますと,平成28年度のデータでも今回取り上げている転倒・骨折というのは原因の第4位で介護が必要になった方の10人に1人の方は転倒による骨折がきっかけで介護が必要になっているようです.
10人に1人というのを多いと捉えるか少ないと捉えるかは人それぞれだと思いますが,軽視はできない状況には変わりありません.
グラフは平成27年度の国民生活基礎調査をもとに作成したものですが,驚くべきは認知症が1位に躍り出たということです.
こういったデータを考えますと,今後は認知症を合併した高齢者の転倒について真剣に考えていく必要があると思います.ちなみに転倒・骨折というのは,ここ数年,介護が必要になった原因の第4~5位にランクインしており,おおよそ10~15%の方が転倒・骨折が原因で介護が必要になっているといった状況は大きく変化しておりません.
またもう1つ着目すべきは転倒・骨折が原因で介護が必要になった方の割合は,年齢を重ねるとともに増加するといった点です.つまり今後ますます高齢化が進めば,さらに多くの方が転倒・骨折がきっかけで介護が必要な状態に陥ってしまう可能性が考えられます.
参考文献
1)厚生労働科学研究, 健康寿命における将来予測と生活習慣病対策の費用対効果に関する研究, 2010
2)国民健康栄養調査,2016
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