目次
第9回日本運動器理学療法士学会開催前にチェックしておきたい演題紹介④
第8回日本運動器理学療法学会は残念ながら中止となってしまいましたので,2年ぶりの学会開催となります.
第9回日本運動器理学療法学会はオンラインでの開催となります.
今回はこの第9回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から興味深い研究をいくつかご紹介させていただきます.
人工股関節全置換術前後における仙腸関節障害の割合と機能的要因の検討
【はじめに,目的】
MacnabらがHip-Spinesyndromeを提唱して以来,股関節と腰椎・骨盤は隣接関節として密接に関連し合い,それぞれの病態に影響を与えることが注目され多くの研究がなされている.
近年,股関節と腰椎の中間に位置する仙腸関節(SIJ)が,股関節疾患による影響を受けることが報告されており,斉藤らは変形性股関節症(HOA)患者の19.7%にSIJ痛があったとしている.
臨床において,人工股関節全置換術(THA)後もSIJ痛の合併を経験することがあるが,その関係と要因の検証はされていない.
そこで,本研究の目的は,THA前後でのSIJ障害の割合の変化と機能的要因を検討することとした.
【方法】
対象は当院にて亜脱臼性HOAの診断を受け,THAを施行された女性患者50名(平均年齢65.6±8.5歳)とした.
術前と術後4週時に,SIJ障害の有無,骨盤傾斜角,股関節伸展筋力,体幹屈曲筋力,股関節伸展可動域,大腿四頭筋のタイトネスを評価しSIJ障害の割合の変化と,SIJ障害の有無とその他評価の関連を調査した.
SIJ障害の有無は仙腸関節スコアを用いて鑑別し,骨盤傾斜角は土井口法を用いた.
筋力は徒手筋力計を使用し,座位にて股関節伸展筋力,体幹屈曲筋力を測定した.
また,徒手筋力計にてトルク値を算出後,体重で除した関節トルク体重比(Nm/kg)を採用した.
股関節伸展可動域は,腹臥位にて最大伸展角度を測定し,大腿四頭筋のタイトネス評価はHeel Buttock Distanceを用いた.
統計学的検討としてTHA前後の割合の変化はMcNemar検定を用いた.
要因はSIJ障害群と非SIJ障害群との群間比較にMann-WhitneyのU検定を行い,有意差があった項目を独立変数,SIJ障害の有無を従属変数とした多重ロジスティック回帰分析(ステップワイズ法)を術前と術後で行った.
有意水準は5%未満とした.
解析ソフトには,R4.0.2(CRAN)を用いた.
【結果】
THA前のSIJ障害群は13名(26.0%),非SIJ障害群は37名(74.0%)であった.
THA後のSIJ障害群は12名(24.0%),非SIJ障害群は38名(76.0%)であった.
McNemar検定の結果,有意差は認められなかった.
2群間比較について,THA前後共にSIJ障害群は非SIJ障害群と比較し,股関節伸展筋力,体幹屈曲筋力,股関節伸展可動域,大腿四頭筋のタイトネスで有意に低値を示した(p<0.01).
多重ロジスティック回帰分析の結果,THA前後共に体幹屈曲筋力(術前OR=1.24,95%CI=1.05-1.63,術後OR=1.27,95%CI=1.08-1.72),股関節伸展可動域(術前OR=1.82,95%CI=1.27-3.54,術後OR=1.37,95%CI=1.06-2.10)が選択された.
【結論】
結果より,HOAに合併するSIJ障害はTHA後も残存することが示唆された.
SIJ障害の要因は,THA前後共に体幹屈曲筋力,股関節伸展可動域が選択され,関連が示唆された.
Vleemingらは,腹直筋や外腹斜筋はSIJのモーメントに十分な影響を与え,Force closureによりSIJの安定性を高めると報告している.
また,股関節伸展制限より寛骨前方回旋の代償が生じ,仙骨Counter-NutationにてSIJ障害が惹起されると考える.
HOA,THA後における顕著な体幹屈曲筋力低下,股関節伸展可動域制限はSIJ障害を惹起させる可能性がある.
感想
変形性股関節症例および人工股関節全置換術例における仙腸関節障害って確かに少なくないですよね.
今回の結果から考えると体幹屈曲筋力のトレーニングと,股関節伸展可動域の改善が仙腸関節障害を予防・改善するために大きなポイントになりそうですね.
筋連結を考慮した肩関節可動域エクササイズが術後成績に与える影響
【はじめに,目的】
肩腱板断裂術後の理学療法において可動域エクササイズ(以下、ROM-ex)を行う際に防御性収縮や肩甲骨挙上などの代償動作を認め,ROM-exを行う際に難渋することを多く経験する.
痛みや不安定な状態で関節を動かすことにより,本来の目的である肩甲上腕関節の運動を行うことができず,防御性収縮や肩甲骨周囲の過剰な収縮を与えてしまう可能性がある.
また,肩関節は自由度が高い関節であるため他の関節からの影響を受けやすい.
その中でも肩甲骨に付着する広背筋は反対側の大殿筋と胸腰筋膜を介し,筋連結していると報告されている.
そこで本研究の目的は腱板断裂術後患者に対して反対側股関節を開排位にした状態で肩関節ROMexを行い,その効果を検証することとした.
【方法】
対象は当院にて2018年7月~2019年5月までに腱板断裂と診断され,鏡視下骨孔腱板修復術を施行した患者80例(年齢:65.8±8.3歳、男性39名,女性41名)とし,介入群40例と従来群40例の2群に分けた.
断裂サイズは小,中断裂のみとし,大・広範囲断裂は対象から除外した.
介入群には術後3ヶ月までの期間において術側と反対側股関節を開排位にした肢位で肩のROM-exを行った.
ただし,股関節を開排した際に痛みや可動域制限のため取れない者は対象から除外した.
なお,術後のプロトコルは両群ともに同様に行い,肩の他動運動は術後2週より開始した.
測定項目は術前,術後3ヶ月,術後6ヶ月に日本整形外科学会肩関節治療判定基準(JOAスコア)をX線評価および関節安定性評価を除く80点満点で評価した.
また,再断裂について術後3ヶ月MRIにて医師が評価した.
統計学的検討には統計ソフトRを用いて2群間の各時期に対してマンホイットニーU検定を行った.
有意水準は5%とした.
【結果】
術前JOAスコアは従来群51.1±10.9点,介入群52.8±12.5点であり,2群間に有意差を認めなかった(p=0.516).
術後3ヶ月JOAスコアは従来群47.3±8.4点,介入群51.6±10.2点であり,介入群は従来群と比較し,有意に高値を示した(p<0.05).
術後6ヶ月JOAスコアは従来群65.6±8.2点,介入群70.2±8.5点であり,介入群は従来群と比較し、有意に高値を示した(p<0.05).
また,両群ともに再断裂例は認めなかった.
【結論】
諸家の報告からも術後3ヶ月までは再断裂が生じやすく,腱板組織が脆弱な時期においてROM-exは肩甲骨の代償を抑えて行うことが望ましい.
Myersによると人体の筋は筋膜で連結されており,同じ筋のグループを連結し,力学的に補完し合う関係が構築されていると述べている.
そのため,今回のように反対側の股関節を開排位にすることで力学的な拘束条件を設けることで自由度を減らし,肩甲骨の代償運動の抑制に繋がり,肩甲上腕関節の運動が行いやすくなったために術後成績に影響を与えたと考える.
感想
これも非常に臨床的で有益な報告ですね.
反対側股関節を開排位にした状態で肩関節の可動域運動を行うというのは比較的すぐに導入できそうですので,健バ断裂症例に限らず肩関節疾患のクライアントに可動域運動を行う際には行かせそうな結果ですね.
今回は第9回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から興味深い研究をいくつかご紹介させていただきました.
学会が楽しみですね.