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新型コロナウイルス感染予防のために病院・施設はどこまで理学療法士・作業療法士のプライベートを制限できるのか?
新型コロナウイルスの第3波の影響で,地域によっては医療機関は徐々に入院患者が増え逼迫している状況です.
こういった状況の中で各病院・施設の中で理学療法士・作業療法士の私生活にも制限が設けられるところが増えてきております.
しかしながら病院や施設がどこまで理学療法士・作業療法士のプライベートを制限することができるのでしょうか?
今回は新型コロナウイルス感染予防のために病院・施設はどこまで理学療法士・作業療法士のプライベートを制限できるのかについて考えてみたいと思います.
新型コロナウイルス感染予防を目的とした理学療法士・作業療法士へのリスク対応要請は可能か?
まず病院や施設が新型コロナウイルス感染予防を目的して理学療法士・作業療法士の外食制限を要請したり,外出制限を要請することは可能なのでしょうか?
基本的には理学療法士・作業療法士のプライベートな飲み会や旅行等については,リスク対応を理由として控えるよう「要請」することは可能です.
プライベートでの予防対策に関する業務命令に従わなかったときのペナルティを課すことができるか?
上述したように病院や施設側が理学療法士・作業療法に対して何らかの予防を目的とした養成を行うことは可能です.
仮に理学療法士・作業療法士がプライベートでの予防対策に関する業務命令に従わなかったときには,懲戒処分等のペナルティを課すことは可能なのでしょうか?
これについては理学療法士・作業療法士が要請に従わなかった場合であっても,不利益を与えるなどの制限を設けることはできません.
なぜペナルティを課すことができないのか?
就業中の制限ならともかく理学療法士・作業療法士の私生活までを制限するのは難しいようです.
あくまでもプライベート(就業外)での行為ですので,就業規則上の懲戒処分等(始末書の提出,減給,解雇等)を行うことまでは,難しいものと考えられます.
一方で事実上の措置として,該当者に対して一定期間の自宅待機・在宅勤務を命じることについては,安全配慮の観点からも,問題ないと考えられます.
しかしながらこういった措置は,懲戒処分とはなりませんので,病院や施設は,自宅待機や在宅勤務を命じた理学療法士・作業療法士に休業手当(賃金の60%相当)を支払う必要があります.
ちなみに病院や施設の就業規則に,休業手当を支給する旨の規定がない場合には,賃金の100%を支給する義務が生じます.
傷害罪になる場合も
上述したように病院や施設は仮に理学療法士・作業療法士が要請に違反したとしても懲戒処分を行うことはできません.
ただ例えば新型コロナウイルス感染症の症状のうち高熱,酷い咳症状あるいは呼吸困難等重篤な症状があるにもかかわらず,これを報告せず,外食等不要不急の外出を行った理学療法士・作業療法士に対しては,それ自体,接触した他者に対して傷害罪となり得る行為であるため,懲戒等の処分はありえます.
要請に違反したことに対してというよりは,他者に感染させる故意があるような場合には,懲戒解雇もあり得るわけですね.
私生活の自由と感染拡大防止を両立させる手段を
では具体的には病院や施設側としてはどういった対策を講じれば良いのでしょうか?
例えば同居家族ではない人との会食を禁止したり,集会参加の禁止に関してはなかなかせいげんするのは難しいと思います.
たとえば理学療法士・作業療法士のような医療従事者の場合であっても,同居家族でない人との会食をすべて禁止するとほぼすべての会食が禁止されることになりますが,「会食=感染」というわけでもありませんので,制限が厳しすぎるということになります.
集会についても同様です.
集会参加=感染ではありませんので制限することはできません.
私生活上の行為の自由と感染拡大を防ぐという2つの価値を両立させるためには,会食については一律に制限するのではなく,感染防止措置をとることを強く求めたり,少しでもリスクのある人との会食を避けたりするなど,もう少し緩やかな措置が現実的だと思われます.
集会参加についても密閉した空間の密集した集会ではない,感染防止措置がとられているものであれば許すなど,より緩やかな制限が必要です.
いずれにしても理学療法士・作業療法士にも私生活の自由があります.
これは憲法でも人格権として保障されている人権ですので,原則として病院や施設が労働者の私生活を制限することは必要最小限にしなければならないという視点が重要です.
今回は新型コロナウイルス感染予防のために病院・施設はどこまで理学療法士・作業療法士のプライベートを制限できるのかについて考えてみました.
これからわれわれ理学療法士・作業療法士をはじめとする医療従事者にはさらなる厳しい制限が設けられる可能性が高いです.
仮に懲戒処分が行われないということであっても要請を遵守せざるを得ないという場合が多いと思いますが,あまりにも過度な制限に対してはわれわれ理学療法士・作業療法士も声を上げるべきでしょうね.
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