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「筋出力」と「筋力」って何が違うの? 理学療法士・作業療法士必見
理学療法士・作業療法士の使う曖昧な言葉の中に「筋出力」といった用語があります.
疼痛のために○○さんの股関節屈曲筋力の筋出力が低下しているといったような表現をする理学療法士・作業療法士ってけっこう多いと思います.
しかしながらこの「筋出力」というのは「筋力」と何が違うのでしょうか?
今回は「筋出力」は「筋力」と何が違うのかについて考えてみたいと思います.
筋力とは?
筋力というのは,筋が収縮するときに生まれる力をさします.
そのためわれわれ理学療法士・作業療法士がハンドヘルドダイナモメーターや徒手筋力検査法を用いて測定している筋力というのはあくまで関節モーメントを測定しているにすぎず,厳密にいえば筋力を測定しているわけではありません.
一般的には廃用等によって筋萎縮や筋断面積が減少した場合などを筋力低下と表現することが多いでしょう.
つまり筋力というのは筋のボリュームに焦点を当てた概念であると考えると分かりやすいと思います.
筋出力とは?
一方で筋出力にはどういった意味があるのでしょうか?
「筋出力」というのは「筋肉が発揮する力」を指す言葉です.
例えば筋萎縮は認められないものの,脳卒中を発症して運動麻痺がおこったために筋肉が力を発揮できないといった場合や,整形外科の術後に疼痛のために筋肉の力が発揮できない場合などに使われることが多いでしょう.
脳卒中にしても整形外科的な疾病にしても発症直後や術後早期には筋出力低下が主な障害になると考えられますが,一方で脳卒中後遺症のように発症から長期間が経過すると運動麻痺によって「筋出力」の低下が起こるといった要素と,廃用症候群によって筋委縮をきたし「筋力」が低下するといった両方の要素が含まれることになるでしょう.
筋力を決定する要因
「筋力」と「筋出力」の相違を考える上では筋力を決定する要因を考えると分かりやすいと思います.
一般的に筋力というのは運動単位の活動電位発生頻度,活動に参加する運動単位数,運動単位動員のタイミング等の神経性要因と,筋断面積の大きさといった解剖学的要因の2つの要素によって決定されます.
筋肉が力を発揮できない場合に,運動単位の活動電位発生頻度,活動に参加する運動単位数,運動単位動員のタイミング等の神経性要因が原因の場合には「筋出力」が低下しているということになりますし,筋断面積の減少のような解剖学的要因が原因の場合には「筋力」が低下しているということになるでしょう.
「筋力低下」と「筋出力低下」ではアプローチも異なる
上述したように「筋力低下」と「筋出力低下」ではその原因が大きく異なります.
当然ながら「筋力低下」と「筋出力低下」ではアプローチも異なるものとなります.
「筋力低下」の場合には,繰り返して筋肉に運動負荷を加えることで発揮される力は向上しますが,「筋出力低下」の場合には筋出力低下の原因に対してアプローチしなければ,短絡的に繰り返して筋肉を収縮させるだけのトレーニングを行っていても発揮される力は改善されないということになります.
医師や他職種には伝わりにくい?
ここまで「筋力低下」と「筋出力低下」の違いについて考えてきましたが,この「筋力低下」と「筋出力低下」の相違というのは医師や看護師といった他職種には伝わりにくい概念だと思います.
そのため運動麻痺についても医師は筋力低下と表現することは少なくないと思いますし,運動麻痺をMMTを用いて評価を行う看護師も少なくありません.
本来であれば「筋力低下」と「筋出力低下」というのは全く異なる概念ですが,このように考えると「筋力低下」と「筋出力低下」の違いを他職種に理解してもらうのは非常に難しいと考えられますので,カンファレンス等の他職種と意見を交わす場では,「筋力低下」と表現した方が話がスムースでしょうね.
またクライアントやクライアントの家族といった一般の方においても「筋力」といった言葉は非常に分かりやすい言葉ですので,クライアントへの説明の際にあえて「筋出力」といった表現を用いる必要はないかもしれませんね.
今回は「筋出力」は「筋力」と何が違うのかについて考えてみました.
「筋出」と「筋出力」の相違を考える際に最も重要なのは,その原因とアプローチが異なるといった点です.
筋力低下=筋力トレーニングといった短絡的な発想ではなく筋肉が発揮する力がなぜ低下しているのかを熟考した上でアプローチを選択する必要があるでしょうね.
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