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どこでも誰でもフレイルが簡単にスクリーニングできる
2019年10月29日に,加藤厚生労働相が75歳以上の人を対象に行う健診で活用されている現行の質問票に代わるものとして,「フレイル」の状態になっているかチェックする「後期高齢者の質問票」を2020年度より導入することを,大臣会見にて表明されました.
フレイルの早期発見および重症化予防においては,理学療法士の役割も非常に大きいと思われます.
今後は変更後の「後期高齢者の質問票」として,運動や食生活の習慣,物忘れの有無など15項目を尋ね,後期高齢者の運動能力や栄養状態などを把握し,フレイルの早期発見また指導や助言をもとに重症化予防を推進する取り組みが勧められます.
そんな中で今回は5つの質問から簡単にフレイルをスクリーニングできる方法に関する論文をご紹介させていただきます.
今回ご紹介する論文
J Am Med Dir Assoc. 2019 Sep 12. pii: S1525-8610(19)30567-5. doi: 10.1016/j.jamda.2019.07.015. [Epub ahead of print]
Development of a Fried Frailty Phenotype Questionnaire for Use in Screening Community-Dwelling Older Adults.
Chen S, Chen T, Kishimoto H, Susaki Y, Kumagai S
今回ご紹介する論文は2019年9月に公表されたばかりの新しい論文です.
研究の目的
The aim of this study was to develop a Fried Frailty Phenotype Questionnaire (FFPQ) and a Japanese FRAIL (fatigue, resistance, ambulation, illnesses, and loss of weight) scale (FRAIL-J) and to evaluate the reliability and validity of both questionnaires in Japanese community-dwelling older adults.
この研究の目的はFriedの提唱するフレイルのフェノタイプ質問指標(疲労感,筋力,移動能力,疾病,体重減少)を開発し,日本版フレイルスケール(FRAIL-J)を開発することとなっております.
さらに両方の質問紙に対して地域在住高齢者を対象に,信頼性および妥当性を明らかにすることを目的としております.
研究デザイン
研究の方法ですが横断研究となっております.
研究の対象
研究の対象は65~75歳の高齢者858例となっております.
研究の方法
The FRAIL-J comprises 5 existing items comparable to those in original FRAIL scale but with broader utilization in the Japanese healthcare system. In FFPQ, resistance, ambulation, and loss of weight were the same as those in FRAIL-J. Fatigue was the same with exhaustion in FFP and inactivity was assessed using a yes or no question. Data including demographics, and physical and cognitive functions, and objective physical activity was collected and analyzed in relation to both questionnaires.
FRAIL-Jは原法のフレイルスケールを元に日本におけるヘルスケアシステムを考慮した上で作成がなされております.
FFPQと同様に筋力,移動能力,体重減少をFRAIL-Jに含めております.
その他の疲労感についてはFFPと同様に身体の疲労感を,不活動については「はい・いいえ」の2択で評価を行っております.
その他,基本的属性や新滝能,認知機能,客観的な身体活動量を評価し,質問紙との関連性を分析しております.
研究の結果
The FFPQ and FRAIL-J showed low internal consistency (Kuder-Richardson formula 20 coefficients = 0.32 and 0.29) and good test-retest reliability (intraclass correlation coefficients = 0.79 and 0.72). The correlations ranged from -0.22 to 0.49 when correlating each item with cross-sectional outcomes. Using FFP as a criterion, the ares under the curve for FRAIL-J and FFPQ were 0.86 and 0.88, respectively. The optimal cut-off for FRAIL-J was 2, with a higher Youden index (66.7% vs 20.3% for 3) and a high negative predictive value (99.5%) but low positive predictive value (13.1%). As for FFPQ, either 2 or 3 was evaluated as cut-off because the Youden index (62.2% vs 58.5%) and negative predictive value (99.7% vs 99.2%) were similar although the positive predictive value was low (9.7% vs 33.3%). Using a 2-point cut-off, both questionnaires had slight agreement with FFP. The highest agreement (kappa = 0.42) was found between FFP and FFPQ using a 3-point cut-off.
FFPQとFRAIL-Jは低い一致性を示し,再現性は良好でありました.
横断的なアウトカムとの相関係数は-0.22~0.49と中等度でありました.
FFPによるフレイル基準としたFRAI-Jにおける曲線下面積は0.86であり,FFPQの曲線下面積は0.88だりました.
FRAIL-Jのカットオフ値は2点となりました(Youden Indexを元に陰性適中率や陽性適中率を検討しております).
FFPQに関しては2点または3点がカットオフ値となりました.
両尺度のカットオフを2点とすると従来のFFPによるフレイル判定とわずかに一致しました.
カットオフを3点とした際の両尺度の一致率が最も高い結果となりました.
この研究の結論
The FFPQ and FRAIL-J can be used for frailty screening in Japanese community-dwelling older adults.
FFPQ,FRAIL-Jは日本における地域在住高齢者のフレイルをスクリーニングする上で有用であると考えられます.
このFRAIL-Jの素晴らしい点はチェックリストで簡単にチェックが行える点です.
フレイルに該当する高齢者は少なくないわけですが,これまでは診断基準がなく,いくつかのテストを課す診断方法が提案されておありました.
しかしながら,いずれもテスト項目の中に,握力・歩行速度の測定といった調査・判定に時間を要するものが含まれているといった限界があり,一般に普及しにくいものでした.
今回の尺度は,日本人の前期高齢者向けに作られたものですが,5項目,6つの質問に「はい」「いいえ」で答えるだけで身体的フレイルを判定可能ですので非常にわかりやすいです.
Fatigue(疲労感)
気分が沈み込んで,何が起こっても気が晴れないように感じましたか?
何をするのも骨折りだと感じましたか?
1.はい・0.いいえ(どちらか1つにあてはまる場合も「はい」に○)
Resistance(筋力)
階段を手すりや壁をつたわらずに昇っていますか?
0.はい・1.いいえ
Aerobic(有酸素能力)
1kmぐらいの距離を続けて歩くことができますか?
0.はい・1.いいえ
Inactivity(活動量低下)
1日のうち座っている又は横になっている時間は起きている時間の80%以上ですか?
1.はい・0.いいえ
Loss of weight(体重減少)
6カ月間で2~3kg以上の体重減少がありましたか?
1.はい・0.いいえ
これでチェックをしていただいて合計スコアを3点となればフレイルに該当するということになります.
今回は5つの質問から簡単にフレイルをスクリーニングできる方法に関する論文をご紹介させていただきました.
フレイルに対しては,2024年度までに全ての市町村でチェック・予防事業が開始されることが決まっておりますので,今回開発されたチェックシートは簡便であり,非常に魅力的ですね.
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