目次
第7回日本運動器理学療法学会開催までに読んでおきたい研究紹介
変形性膝関節症関連3
一昨年まで行われた日本理学療法士学会が,昨年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.
令和元年10月4-6日に岡山県で第7回日本運動器理学療法士学会が開催されます.
今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から変形性膝関節症関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.
股関節伸展による内側広筋・中間広筋の弾性率の変化
―加齢,筋の硬さおよび大腿直筋の伸張量が及ぼす影響―
研究の目的
先行研究で健常若年者を対象に膝屈曲位で股関節伸展すると,大腿直筋の弾性率増加に伴い,広筋群の弾性率も増加することが明らかにされております,
つまり大腿直筋の伸張に伴い,単関節筋も伸張されることが報告されております.
この現象のメカニズムとして,筋の伸張により筋形態が変化した際に,筋間の結合組織を介して隣接筋へ力伝達することが考えられております.
しかし,この二関節筋の伸張に伴い筋間の結合組織を介して単関節筋が伸張されるという力伝達の現象に,加齢に伴う結合組織の変性や筋の硬さなどが影響するのかについては明らかではありません.
この研究の目的は膝屈曲位で股関節伸展させた時の大腿四頭筋の伸張量を超音波せん断波エラストグラフィ機能による弾性率を用いて評価し,加齢,筋の硬さおよび大腿直筋の伸張量が内側広筋と中間広筋の伸張量へ及ぼす影響について明らかにすることとなっております.
研究の方法
健常女性56名(19―64歳)を対象としております.
超音波診断装置のせん断波エラストグラフィ機能を用いて,背臥位・膝関節90度屈曲位で,股関節屈曲90度位(以下,屈曲位)および股関節伸展5度位(以下,伸展位)の2肢位で内側広筋(以下,VM),中間広筋(以下,VI),大腿直筋(以下,RF)の弾性率を測定しております.
なお,弾性率は高値であるほど筋が硬いことを示し,筋伸張位ほど高値となることが報告されております.
各筋の伸張量の指標として股関節伸展位と屈曲位との弾性率の差を算出しております.
統計解析は①年齢と単関節筋(VM・VI)の伸張量(伸展位弾性率-屈曲位弾性率)との関連,②安静肢位での各筋の硬さ(屈曲位での弾性率)と単関節筋の伸張量との関連,③RFの伸張量と単関節筋の伸張量との関連をみるために相関分析を行っております.
研究の結果
股関節屈曲位と比較して股関節伸展位ではRFのみならず,VMおよびVIの弾性率も有意に高値を示しております.
単関節筋(VM・VI)の伸張量と年齢との間にいずれも相関はみられておりません.
単関節筋の伸張量と安静肢位での各筋の硬さとの関連について,VMおよびVIの硬さとの間には相関はみられておりませんが,RFの硬さとの間には有意な正の相関がみられております.
また,VMおよびVIの伸張量とRFの伸張量との間には有意な正の相関がみられております.
研究の結論
股関節伸展による単関節筋(内側・中間広筋)の伸張の程度,つまり筋間の結合組織を介して単関節筋が伸張されるという力伝達の程度に影響を及ぼす因子について調査した結果,加齢変化や単関節筋の硬さは影響しないものの,大腿直筋の硬さや大腿直筋の伸張量の影響を受けることが示唆されます.
感想
昨年もこの筋間の結合組織を介した隣接筋へ力伝達に関する発表がなされておりますが,こういった筋間の結合組織を介した力伝達を考えると,股関節の肢位を変化させることによるさまざまな介入が可能になります.
こういった基礎研究の結果をどう生かすかも臨床で勤務する理学療法士に求められるところではないでしょうか?
変形性膝関節症患者における歩行時の運動パターンの比較
―体幹と股関節の関係―
変形性膝関節症(以下,膝OA)患者における歩行分析は臨床推論において重要であります.
膝OA患者におけるデュシェンヌ歩行は身体重心を立脚側へ移動させることで,レバーアームが短くなり,外部膝関節内反モーメント(以下,KAM)を減少させていると考えられております.
しかし,臨床ではトレンデレンブルグ歩行を呈する患者も多いのが実際です.
そのためトレンデレンブルグ歩行を呈する患者はデュシェンヌ歩行とは違った戦略でKAMを減少させていると考えられます.
この研究の目的は膝OA患者の歩行時における股関節外転運動パターンによってトレンデレンブルグ群(以下,T群)とデュシェンヌ群(以下,D群)に分類しそれぞれの運動学・運動力学的特徴について検討することを目的としております.
臨床推論の中で,これらの代償動作を詳細に分析することで個々の患者に対して適した治療プログラムを立案する一助となると考えられます.
研究の方法
対象は手術目的にて当院に入院した膝OA患者144名(69.5±8.7歳,身長1.6±0.1m,体重62.4±11.9kg)となっております.
歩行中の運動学的・運動力学的データは三次元動作解析装置(Vicon Motion System社,Vicon MX)を用いて測定が行われております.
歩行条件は,裸足で自由歩行速度とし,マーカーは41点に貼付しております.
なお,立脚時間を100%とした正規化を行い,計測した5歩行周期の中から,任意に3歩行周期を抽出し,体幹側屈角度,膝内反角度,KAMを算出しております.
群分けには,健常高齢者50名の立脚期の股関節外転運動の95%信頼区画を参考にし,歩行周期上の0%,30%,50%時の値が信頼区画より大きい群をD群とし,小さい群をT群と定義しております.
そして,KAMと各項目の相関関係を検討し,有意水準は5%としております.
研究の結果
D群18名(72.7±5.8歳,身長1.5±0.1m,体重60.1±11.6kg:gradeII7名,III6名,IV5名),T群18名(64.5±10.7歳,身長1.5±0.1m,体重65.4±14.5kg:gradeII4名,III5名,IV8名)でありました.
T群では膝内反角度に正の相関が認められております.
D群では相関関係は認められておりません.
研究の結論
歩行時の膝OA患者では立脚側への体幹側屈により,KAMを減少させていると考えていたが,この研究では有意な相関関係は認められておりません.
トレンデレンブルグ歩行では膝内反角度の増加はレバーアームの増加により,KAMが増加するため,正の相関がみられたと考えられます.
デュシェンヌ歩行では相関関係が認められなかったことから,デュシェンヌ群は重症度が高いため,体幹の移動による運動連鎖ではKAMを制御できず膝内反角度,足部回内角度などの他関節の影響を用いてKAMを減少させていると考えられます.
感想
非常に解釈が難しい結果ですが,一口に変形性膝関節症といっても膝関節内反モーメントを減少させるさまざまなストラテジーが考えられます.
理学療法士は,クライアントをただ単に正常歩行に近づけるのではなく,どのようにして膝関節内反モーメントを減少させるべきかを熟考した上でアプローチを行っていく必要がありますね.
今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から面白そうな研究をいくつかご紹介いたしました.
学会に参加される方は学会までに抄録をしっかり読み込んで参加したいですね.
コメント