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第7回日本運動器理学療法学会開催までに読んでおきたい研究紹介
足関節関連
一昨年まで行われた日本理学療法士学会が,昨年度から完全に分科会学会単独での開催となりました.
令和元年10月4-6日に岡山県で第7回日本運動器理学療法士学会が開催されます.
今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から足関節関連の面白そうな研究をいくつかご紹介いたします.
足部・足関節骨折患者の疼痛の残存状況とそれに関連する因子の検討
研究の背景・目的
足部・足関節骨折に対する治療過程では,免荷やギプス等による不動期間が設けられることが多く,運動機能障害や慢性疼痛といった問題が頻繁に生じます.
実際,先行研究では,足関節骨折患者の1/3に能力障害が生じ,これにはギプス固定除去後に残存する疼痛が関連すると報告されております(LinCW,etal.2009).
しかし,足部・足関節骨折後に残存する疼痛の関連因子について検討した報告は非常に少なく,基礎資料に欠けているのが現状です.
この本研究では,足部・足関節骨折後の疼痛の残存状況と関連因子について後方視的に検討しております.
研究の方法
対象は,足部・足関節骨折にて当院に入院し理学療法(PT)を施行した18例(54.7±14.2歳)としております.
基本項目として,年齢,性別,身長,体重,骨折部位,手術の有無,免荷期間を調査した.次に,疼痛関連項目として,程度をNRS,中枢感作をCSI,破局的思考をPCS,不安・抑うつをHADSにて評価しております.
また,運動機能関連項目として,運動無視をNLSのMNとCN,足関節底・背屈の等尺性筋力と関節可動域をそれぞれ筋力測定器(µ-TasF-1,アニマ社)とゴニオメーターを用いて評価しております.
なお,評価時期は荷重開始時(BL)と荷重開始4週目(4w)とした.統計学的分析として,BLと4wのNRSと基本項目ならびに同時期の評価項目との関連性について,対応のないt検定とSpearmanの順位相関係数を適用して検討しております.
統計学的有意水準は5%未満としております.
研究の結果
BLと4wのNRSはそれぞれ3.7±2.1,2.7±2.2であり,基本項目との関連性は認めておりません.
次に,BLのNRSは,PCS拡大視(rs=0.4903)とNLS-MN(rs=0.721)と有意な正の相関関係を認め,足関節底屈筋力(rs=-0.6248)と有意な負の相関関係を認めた.また,4wのNRSは,PCS拡大視(rs=0.7662),PCS総点(rs=0.5539)ならびにNLS-MN(rs=0.6282)と有意な正の相関関係を認めておりません.
研究の結論
本研究の結果,足部・足関節骨折後の疼痛の残存には,破局的思考や運動無視,底屈筋力が関連することが明らかとなりました.
以上のことから,免荷・不動期間中やその後のPTにおいて,運動無視に対するアプローチや患者教育指導を併用する必要性が示唆されます.
感想
これまで変形性関節症例や人工関節全置換術例において破局的思考や運動無視が術後遷延する疼痛と関連することが報告されておりますが,足関節疾患においても同様の結果であるということが明らかにされております.
特に足関節疾患は免荷や固定が長いといった特徴がありますので,この間の理学療法プログラムの工夫が必要でしょうね.
足関節外果骨折術後の足部軟部組織柔軟性と
足関節背屈ROM・母趾伸展ROMの関係性 超音波Elastography用いて
研究の背景・目的
足関節外果骨折の術後は,創部周囲の腫脹・癒着により足関節の背屈制限が生じやすいといった特徴があります.
超音波エコー(US)を用いた我々の先行研究により,足関節外果骨折術後の足部周囲の軟部組織は硬くなっていることが明らかにされております.
また,母趾の伸展可動域が不良な症例は足関節背屈可動域が不良であることが多い傾向にあります.
この研究では,足関節外果骨折術後の足部周囲軟部組織の柔軟性をUSを用いて測定し,足関節背屈ROMと母趾伸展ROMの関係性を明らかにすることを目的としております.
研究の方法
対象は,足関節外果骨折術後15例(男性8例,女性7例,平均年齢61.3歳)とし,健側と患側の足部周囲軟部組織の組織弾性を,US(Aixplorer,コニカミノルタ社製)のShear Wave Elastographyを用いて評価しております.
腹臥位足関節中間位で,Kagerʼs fat pad(KFP),長母趾屈筋(FHL),ヒラメ筋(SU),短腓骨筋(PB)の各筋を10回測定し,その平均値を算出しております.
また,ゴニオメーターを用いて足関節背屈ROM・母趾伸展ROMを測定しております.
検討項目は,各筋の組織弾性を健側と患側で比較検討しております.
足関節背屈ROMと母趾伸展ROMの相関,各筋の組織弾性と足関節背屈ROM・母趾伸展ROMの相関を求めております.
なお検査測定は,十分練習を行った同一者が施行しております.
統計処理は対応のあるt検定,ウィルコクソン検定,ピアソン相関係数を用い,有意水準を5%未満としております.
研究の結果
KFP組織弾性(健側:患側)は,2.24m/s:2.77m/s,FHL組織弾性は,2.79m/s:3.65m/s,SU組織弾性は,3.28m/s:4.31m/s,PB組織弾性は,3.31m/s:4.48m/sであり,全ての筋において,患側が健側に比べ有意に高値を示しております(p<0.05).
足関節背屈ROMと母趾伸展ROMに,r=0.71(p<0.01)の正の相関が認められております.
足関節背屈ROMとの相関は,KFP組織弾性とr=-0.64,FHL組織弾性とr=-0.63,SU組織弾性とr=-0.62の負の相関が認められております(p<0.05).
また,母趾伸展ROMとの相関は,KFP組織弾性とr=-0.56,FHL組織弾性とr=-0.55の負の相関が認められております(p<0.05).
研究の結論
この結果,足部周囲の軟部組織弾性は健側と比べて患側が有意に高値を示し,KFP,FHL,SU組織弾性と足関節背屈ROMに負の相関がありました.
また,足関節背屈ROMと母趾伸展ROMに正の相関が認められ,これは母趾の伸展制限に伴い足関節背屈制限を有することを意味します.
また母趾伸展ROMとFHL,KFPに負の相関が認められております.
これは,これらの筋の柔軟性低下に伴い母趾伸展ROMが制限されることを示唆するものだと考えられます
感想
足関節背屈可動域獲得には下腿三頭筋のみならずKager’s fat padや長母指屈筋に着目することが重要であることが示唆される研究ですね.
また足関節固定時より母趾の背屈可動域に着目して介入を行っておくことが重要であると考えられます.
今回はこの第7回日本運動器理学療法士学会の一般演題の中から面白そうな研究をいくつかご紹介いたしました.
学会に参加される方は学会までに抄録をしっかり読み込んで参加したいですね.
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