目次
最大の認知症予防は歩くこと
認知症高齢者の数は460万にものぼり予備軍まで含めると900万人を超えると言われております.
今や後期高齢者の4人に1人が認知症を言われる状況です.
われわれ理学療法士にとっても他人ごとではありませんが,認知症を予防する最も効率的な方法は歩くことです.
今回は認知症と歩く行為との関連性について考えてみたいと思います.
認知症の増加
認知症が増えた一番の原因は寿命が延びたことかもしれません.
年を重ねれば考える力が衰えるのも無理はありません.
ただ問題なのは以前の同年齢と比較しても認知機能が低下している高齢者が増えているという状況です.
血管年齢や骨年齢という言葉をよく耳にしますが,脳年齢が実年齢よりも低い高齢者が増えているわけです.
仕事ができなくなったり,家事ができなくなったり,社会生活に支障が出る場合もあります.
年齢相当以上に認知機能が低下してしまう高齢者が増えている原因を知ってますか?
一番の原因は生活習慣病の増加です.
中でも認知症との関連が強いと言われているのが糖尿病です.
日本の研究では糖尿病があると認知症になるリスクは2倍にもなるという結果が報告されております.
つまり糖尿病患者が増えるほど認知症になる人も増えるというわけです.
認知症に対する薬物療法
現在のところ認知症治療の大黒柱は薬物療法でしょう.
今のところ抗認知症薬と呼ばれる薬は4種類ありますが,どれも根本的に認知症を治すものではありません.
あくまで認知症の進行を抑制する薬です.
また薬の効果があるのは全体の3~4割であり,決して万能ではありません.
抗認知症薬の中で最も使用されているのはアリセプトという薬です.
このアリセプトは易怒性を高めるなどの副作用も報告されております.
このように薬物療法による認知症治療には大きな限界もあり,やはり認知症を予防するということが重要となります.
具体的にはMCIと呼ばれるような軽度の認知障害の段階で予防介入を行っていくことが重要となります.
最近はアルツハイマー病の原因とされるアミロイドβが脳内に貯まる際に関連する3種類のたんぱく質を採決で調べれば,このMCIのリスクを評価できることも明らかにされております.
認知症予防効果があるのは2つだけ
現在のところ薬物療法で認知症予防に効果があるとされているものがあります.
シロスタゾールというお薬です.
脳卒中のリハビリテーションに携わっている方であれば耳にしたことのあるお薬だと思います.
これは脳梗塞発症後の再発予防に用いられる薬ですが,基本的には認知症予防に投与される場合にはまだ保険適応になりません.
もう1つは計算をしながら歩くことです.
国立長寿医療センターで行われた研究によるとMCI高齢者に毎日1時間50から3ずつ減算していく課題を行いながら歩いてもらったところ1年後には脳内のアミロイドβ-が消失していたと報告されております.
これってすごくありませんか?
たくさん種類のある薬物の使用でも予防の難しい認知症が計算をしながら歩くというお金のかからない簡単な方法で予防できるわけですから,これは行わない手はありません.
認知症を発症しても歩くことには意味があるか?
計算をしながら歩くというのはあくまで認知症予防には意味があるわけですが,実際に発症してしまった認知症に対してはどのような意味があるのでしょうか?
認知症を発症すると病院や施設内では抑制をされたり,鎮静をされたりという場合が少なくありません.
最近は認知症高齢者の徘徊による電車事故や認知症高齢者の交通事故も社会問題になっておりますので,非常に難しいところです.
実は歩くと脳内でのセロトニン分泌が増えますので,日中に誰かが付き添って歩くことで周辺症状が減少するのではないかといったことも考えられます.
つまり認知症の高齢者ほどしっかりと歩いてもらう必要があるわけです.
もちろん歩くことで認知症が治るわけではありませんが,認知症の周辺症状を軽減させるというのは介護者にとっては非常に意味があると思います.
今回は認知症と歩く行為との関連性について考えてみました.
歩くことは認知症の予防につながるだけでなく認知症の周辺症状の軽減にも有効ですので,認知症高齢者の安全を確保した上で歩く行為を生活の中に取り入れることが重要です.
たかが歩くされど歩くなわけですが,こういった知識を一般の方にわかりやすく伝えていくこともわれわれ理学療法士の重要な仕事だと思います.
コメント