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認定理学療法士症例報告レポート記載例 地域理学療法
このブログの中でも数回に分けて取り上げさせていただきましたが,2021年以降,日本理学療法士協会の認定理学療法士制度は大きく変わることが明らかにされております.
そのため昨年度もものすごい数の認定理学療法士受験者数となりました.
今年度もまたかなりの数の理学療法士が認定理学療法士取得に向け,試験を受けることが予測されます.
認定理学療法士取得に当たっては,ポイント・症例報告レポート・認定試験といった3つのハードルをクリアする必要があります.
症例報告レポートに関してはどういった形式で記述すべきかといったご質問をいただきますが,具体例のようなものも出されていないのが現状です.
今回は認定理学療法士(地域理学療法)症例報告レポートの記載例をご紹介させていただきます.
症例報告を記載する前に審査指標項目を把握しよう
症例報告の審査に関しては審査指標項目というのが決められております.
認定理学療法士(地域理学療法)に関しては,以下の5つのポイントが審査指標項目となっております.
闇雲に記載するのではなく,まずはこの審査指標項目を把握することが重要です.
1.事例・症例の疾患もしくは状況課題が申請認定領域として適切に選択されているか
地域理学療法の定義は明確にはされておりませんが,一般的には在宅での生活期におけるクライアントを対象とすることが多いと思います.
障害も多岐にわたりますが,機能障害に固執することなく,活動や参加に焦点を当てて介入した対象がこの地域理学療法の領域の状況課題としては適切だと考えます.
介護保険サービスや住環境整備といった環境面に主眼を置いた介入をした対象などもこの領域の状況課題としては良いと思います.通所リハビリテーションにおいて介入した症例や訪問リハビリテーションにおいて介入した症例などが代表的だと考えられますが,例えば医療機関に入院した症例が退院する際に介入を行った症例等も適当だと思います.
2.事例・症例紹介・経過・(現)病歴が的確かつ明確に述べられているか
評価結果をもとに問題点を抽出できているかどうかがポイントとなります.
評価結果は客観的である必要がありますので,できるだけ数値で表せるような尺度を用いて評価を行うことが重要です.
一般的な理学療法における理学所見にとどまることなく,家屋環境や介護者への介入などの合わせて記載しておくことをお勧めします.
特に理学療法士の視点で活動・参加に焦点を当てて記載していくことが重要です.
3.主な問題点について的確かつ明確に述べられているか
評価から導き出された問題点に対してどういった介入を行ったのかを具体的に記載します.
この介入内容が評価から導き出した問題点とかけ離れたものであれば審査は低い点数となってしまうでしょう.
介入ありきではなく評価ありきでどういった介入を行ったかを記載することが重要です.
4.解決方法および結果・成果が客観的かつ的確であり明確に述べられているか
評価結果は客観的である必要がありますので,できるだけ数値で表せるような尺度を用いて評価を行うことが重要です.
可能であれば初回介入時の客観的データと照らし合わせながら,記述できるとよいでしょう.
5.考察において論理的であり明確に述べられているか
具体的には機能低下と活動・参加を関連付けた上で問題点を抽出した流れ,そして問題点に介入を行ったことでどのような結果・成果が得られたかを論理的に記述します.
ここで日々の臨床の中で頭の中で行っているクリニカルリーズニングを言語化することが重要となります.
認定理学療法士事例・症例報告サマリー用紙不適切な記入の例
こんなのはNGですので,気をつけましょう.
- 字数が不足している,または字数が多すぎる(1症例につき全体の文字数は 1,000~1,200 程度)
- 書式が古い(HP に掲載の最新の書式で作成してください)
- 客観的評価項目や数値が不十分である(検査結果に単位が記載されていることが望ましい)
- 開始時所見や終了時(報告時)所見の理学所見が不十分
- 考察について内容が経過報告になっていて,考察になっていない(ただ客観的データを並べるだけではダメです)
認定理学療法士症例報告レポート記載例 地域理学療法
疾患名/年齢/性別(基本情報)
症例は脳梗塞後遺症による左片麻痺を合併した48歳の男性である.
要介護度は要介護3,身体障害者手帳は2級であり障害年金を受給している.
他県在住の弟がキーパーソンであるが,県内には介護者はいない状況であった.
自宅で就寝中に脳梗塞を発症し,回復期リハビリテーション病院で約5か月のリハビリ加療を経て自宅退院となった.退院後は週2回の訪問介護,週2回の通所リハビリテーションサービスを利用していた.
コミュニケーションは良好でリハビリテーションに対しても意欲的であった.
日常生活に支障となる可動域制限は認めず,左片麻痺はBrunnstrom Recovery Stageで上肢Ⅳ・手指Ⅲ・下肢Ⅲであった.活動時の左下腿三頭筋の筋緊張亢進が著明であり,歩行時には軽度の内反尖足を呈している.
また軽度の注意障害を呈しており,特に二重課題処理能力の低下が顕著であった.
ADLはBarthel Indexで95/100点(入浴のみ減点)であった.
居室内は伝い歩きで移動しているが,入院中に作成したプラスチック型短下肢装具を未装着のまま移動することが多い状況であった.
屋外は短下肢装具と4点杖を使用して移動が可能であったが転倒危険が高く見守りが必要であった.家屋は築30年の分譲マンションの5階にあり,1階のマンション入り口に5段の段差がある(両側に手すりあり).
自宅内は玄関に10cm,トイレに5cm,浴室に15cmの段差があるが,バリアフリー化や手すりの設置などの住宅改修は行っていなかった.
主な問題点
#1.屋外移動監視→閉じこもり傾向→廃用症候群のリスクが高い
#2.屋内移動時に装具を装着しない
#3.入浴動作困難
#4.玄関の段差
解決方法
ADLは入浴以外自立しており,介護保険サービスを利用しながらの一人暮らしは可能であったが,入院時と比べ活動量が減少し,廃用症候群進行に伴うADL低下が危惧された.
外出の妨げとなっている玄関の段差について,設置型の手すりを貸与し外出頻度を増やすようにアプローチした.
また設置した手すりと段差を使ってできる麻痺側下肢の筋力トレーニングを通所リハビリテーション利用時以外の日に実施するように指導した.
訪問介護では掃除と買物を行っていたが,まずは掃除の自立を目標に訪問介護スタッフともに生理整頓と掃除を行った.
自宅内でも短下肢装具を装着しないことが多く,内反尖足や分廻し歩行といった異常歩行の原因となる可能性が高いと考え,通所リハビリテーションサービス利用時に装具装着の必要性について継続得的に指導を行った.
考察
本症例は退院後も身体機能面では大きな変化はみられなかったが,入院時よりも活動量が減少することで廃用症候群進行に伴うADL低下が危惧された.
訪問介護スタッフと掃除をともに行うことで活動量を増加させるとともに,介入3ヶ月後には掃除が独力で可能となった.
また短下肢装具を装着して掃除を行うと荷重ができてバランスが安定して動きやすいといった実感が得られ,装具装着の頻度や時間も増加した.
活動を通じて装具装着の必要性を実感してもらえたことが,装具装着機会の増加につながったものと考える.玄関に手すりを設置し,訪問介護スタッフとの買物(外出)を継続することで最終的には屋外移動が自立となった.
また短下肢装具装着の必要性について継続的に指導を行うことで,自宅内での転倒や異常歩行パターンを呈することなく,独り暮らしが可能となったと考える.
介入から3ヶ月が経過した時点で,買物も自立し,近隣住民との交流も増え,互助による支援を受ける機会も増えた.
身体機能面だけでなく環境調整や動作時のアドバイスなど間接的アプローチを重点的に行ったことで,活動性が向上し身体機能の維持・向上が可能になったものと考える.
今回は認定理学療法士(地域理学療法)症例報告レポートの例をご紹介させていただきました.
私なりに仮想症例で記載してみたものの不十分なところもあると思います.
あくまで1つの参考にしていただけると嬉しいです.
その他にも認定理学療法士に関する記事をまとめておりますので是非参考にしていただければと思います.
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