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理学療法士・作業療法士が症例研究を行う意義
日本理学療法士協会ではビッグデータによる多施設共同研究を推進する一方で,症例研究を大切にしようといった動きがあります.
日本運動器理学療法学会でも,多標本計画法による研究に加えて,症例研究に関するセッションが設けられており,理学療法士の原点である症例研究を大切にしようといった動きがあります.
今回は理学療法士・作業療法士が症例研究を行う意義について考えてみたいと思います.
症例研究よりもRCT?
研究によってある介入を実践することが理論的に最も正しいとする根拠は,研究方法(研究デザイン)によって異なります.
さまざまな研究デザインの中でも,最も信頼性の高い科学的根拠は「RCTのメタアナリシスによって得られる」とされます.
次のレベルには少なくとも1つのRCTが続き,準実験デザインに相当するよくデザインされたシングルケース法は7つの階層の3番目,そしてケーススタディとケースレポートは6番目に位置します。
こう考えると症例研究の科学的根拠はあまり信頼性の高いものとは言えないと考えられますが,それではなぜ,エビデンスレベルが高くないと位置づけられている症例研究を行う必要があるのでしょうか?
その理由は「RCTは臨床的に新しいアイデアの発見という目的には不向きである」とされる一方で,「症例研究は新しい臨床的なアイデアを発見し,その後のRCTなどの臨床研究につながる探索的な研究を行うことができる」といった利点があるためです.
また臨床では,「ある介入の一般的な有効性よりも,ある特定の対象に対する有効性を明らかにすることが重要である」とも考えられます.
例えばわれわれ理学療法士は,RCTによって90%以上の対象者に効果があるとされた介入であっても,その介入をただ漫然と行うわけではなく,その介入の実効性や効果の有無を評価する必要があります.
しかしその介入を開始したとしても効果がない,あるいは実施できない(バイタルサインの異常な変化,対象者の拒否の出現など)と判断されれば,どんなにエビデンスがあるといわれる介入であってもそれを続けるわけではなく,その介入の問題点や改善点を考え,新たな介入を取り入れることになります.
つまり症例研究はエビデンスとは無関係ではなく,エビデンスを検証する最新の場になるといえます.
また臨床では,その症例の特徴の情報をもとに探索的に介入を試み,その結果をもとに新たな介入を考え発展させることがあります.
このような個人の状況(目的)にあわせて,効果検証の方法(研究の方法論)を柔軟に変える探索的な取り組みは,,RCTでは行うことができません.
新たなエビデンスとなり得る介入は,探索的な研究に強みをもつ症例研究によって発見されるわけです.
このように症例例研究は,エビデンスとかけ離れた研究ではななく,エビデンスと関係の深い臨床の最前線に位置する研究方法であり,これら症例研究の積み重ねが,系統的レビューやメタアナリシスの対象として活用され,より高いエビデンスとされる研究に結びつくわけです.
こう考えると症例研究の位置づけというのが無くてはならないものであると認識が変わると思います.
症例研究に必要な項目と注意点
症例研究は,日常臨床業務,学会,学術論文などの何らかの方法で新たな知見を提供し,伝える役割をもっています.
症例研究の構成は,ほかの研究と同様に,タイトル,要旨,研究目的,対象者,方法,経過や結果,考察に分けて考えていくと進めやすくなります.
症例研究の発表が成功するか否かは,「①論題の適切さ,②提示の良質さ(正確さ・まとめ方・構成),③症例がこの論題に関する知見の構築に役立つものであるか,④診療・研究,あるいはその患者に使える要素の明快さの4つの基準にかかっている」とされます.症例研究を行う際の確認項目とその内容がガイドラインによって具体的に示されています.
なかでもCARE(CASE report guidelines) checklistには,症例研究を行う際に確認すべき13項目とその確認内容がチェックリスト形式で紹介されております.
臨床研究に限ったことではありませんが,研究というのは第三者にもその内容を誤解なく伝える必要があります.
独りよがりな症例研究にならないためにも,チェックリストに照らし合わせながら,研究を進めていくことが重要となります.
症例研究における留意点:プライバシー保護
症例研究には対象者のプライバシーに関する情報が多く含まれます.
CARE checklistによると,クライアントからの視点を大切にすること,プライバシーの保護とインフォームドコンセントに十分に配慮する必要があることが記されております.
症例研究の最終的な目的は,得られた新たな知見がクライアントへ還元されることです.
シングルケース法では一例を大切にすることが求められていますので,クライアントの視点を含めて症例研究によってその症例に不利益か生じないように配慮,確認することが重要となります.
今回は理学療法士・作業療法士が症例研究を行う意義について考えてみました.
症例研究は理学療法士・作業療法士が自身の臨床を見つめなおす意味でも非常に重要であると思います.
また症例研究を通じて,症例に関して他者としっかりとディスカッションを行うことこそが,真の意味での知識や臨床技能の向上につながるものと考えます.
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