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ロコモティブシンドロームの定義とその概念
ロコモティブシンドロームといった概念が登場してから10年近くがたちますが,実はこの概念が登場した当初からその定義も変わっていたりします.
なんとなくロコモティブシンドロームを理解されている方も多いと思いますが,今回は改めてロコモティブシンドロームの定義とその概念について整理してみたいと思います.
ロコモティブシンドロームとは?
ロコモティブシンドロームとは,「運動器の障害によって移動機能が低下した状態」のことを指します.
ロコモティブシンドロームが進行すると生活機能低下を引き起こし,介護が必要となるリスクが高くなりますので,介護予防を考えた際にもこのロコモティブシンドロームは軽視できません.
また運動器とは「身体を支え運動を実施する器官のことであります.
主な運動器の構成要素は,①身体の支えの部分である骨,②可動部分であり,衝撃を吸収する部分である関節や椎間板,③身体を動かし制動する筋と,④筋に信号を送る神経系となります.
中でも頻度の高い疾患は,上記の運動器の構成要素に当てはめると①骨粗鬆症,②変形性膝関節症・変形性脊椎症,③サルコペニア,④脊柱管狭窄症などがあります.
これらの疾病は疼痛,関節可動域制限,筋力低下,バランス能力低下などの身体機能制限を引き起こし,移動機能低下につながります.
さらに多くの高齢者は,これらの疾患や身体機能制限が複合的に発生します.
例えば骨粗鬆症,変形性膝関節症,サルコペニアを合併している高齢者というのは非常に多いと思います.
ロコモティブシンドロームの疫学
平成25年の国民生活基礎調査によると,高齢者の要介護原因の第4位が転倒・骨折となっており,全体の11.8%,第5位が関節疾患で10.9%であり,これらを合わせると全体の2割を超えます.
つまり要介護原因の2割はロコモティブシンドロームをはじめとする運動器疾患であるといえると思います.
そのため超高齢社会を迎えたわが国では,ロコモティブシンドロームの予防は重要な課題であります.
本邦における大規模疫学調査によると,骨粗鬆症の有病率は,60歳代の女性で約20%,70歳代の女性で約40%であったと報告されております.
また変形性膝関節症の有病率は60歳代の女性で約60%,70歳代の女性で約70%であり,さらに変形性脊椎症の有病率は60歳代の女性で約70%,男性で約60%,70歳代では男女ともに約80%であったと報告されております.
これを平成17年度の年齢別人口構成にあてはめて考えると,脊椎および大腿骨頸部のいずれかで骨粗鬆症と判断された者は約1,280万人,変形性膝関節症は約2,530万人,変形性脊椎症は約3,790万人と推定されます.
さらにこれらの3つの運動器疾患のいずれか1つでも有している者の割合は,男性84.1%,女性79.3%となり,推定有病者数は4,700万人(男性2,100万人,女性2,600万人)にも及びます.
つまり高齢者=ロコモティブシンドロームを合併していると考えても良いほど,ほとんどの高齢者が何らかの運動器疾患を合併していると言えるわけです.
高齢化が進むわが国においては,運動器疾患を有する高齢者は増加の一途をたどっており,ロコモティブシンドローム対策は喫緊の課題であります.
ロコモティブシンドロームの予防
ロコモティブシンドローム予防においては,従来から行われているように個々の疾病に対応するだけでなく,運動器疾患が引き起こす移動機能低下や生活機能低下を総合的に把握し,予防することが重要となります.
また医療機関に入院している高齢者は入院の原因となった疾病だけでなく,ロコモティブシンドロームを合併しているといった認識を持っておく必要があります.
当然ながら退院時にもロコモティブシンドロームを合併した状態で退院となりますので,ロコモティブシンドロームの予防・改善を見据えた運動指導や退院指導が必要でしょう.
今回はロコモティブシンドロームの定義とその概念について整理してみました.
こうして改めてみてみるとロコモティブシンドロームを合併している高齢者の多さに驚きますが,考え方を変えればわれわれ理学療法士・作業療法士ができることはまだまだあると言えるかもしれませんね.
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