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震災の家屋被害が大きいと骨密度・心理的苦痛・身体活動量にも悪影響
今年は本当に災害の多い1年でした.
私の身近でも自然の脅威を感じさせられる災害がいくつかありました.
テレビのニュースを見ていると自然災害というのはいつどこで起こってもおかしくないなと思うわけですが,自然対策への備えの必要性を感じた1年でもありました.
自然災害が起こった直後というのはメディアでも多くの情報が発信されるわけですが,その後の情報というのは多くはありません.
今回の報告は震災被害の長期的な影響を医療者の視点で検討した報告ですが,非常に興味深い内容です.
第77回日本公衆衛生学会総会における災害による二次健康被害の報告
今回ご紹介いたします内容は2018年10月に福島県郡山市で開催された「第77回日本公衆衛生学会総会」で東北大学グループが発表したものです.
この研究によると地域住民コホート調査において,震災被害の長期的な影響として,家屋被害の大きさと心理的苦痛・平均歩数・骨密度に関連が見られたということです.
東北メディカル・メガバンク計画
この研究は東北メディカル・メガバンク計画という事業の中で行われたものですが,東日本大震災からの復興事業として計画され,宮城県では東北大学東北メディカル・メガバンク機構,岩手県では岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構が事業主体となり,震災被害による長期的な健康調査(地域住民コホート調査・三世代コホート調査)が行われております.
この調査には宮城県・岩手県の2県で合わせて84,073人が参加しており,非常に大規模な調査となっております.
この調査は2013年に開始されたコホート調査で行われた最初の採血などから概ね4年経過時点で行われ,さまざまな検査によって,参加者の経時変化を幅広い観点で測定しております.
震災の影響のみならず,加齢や生活環境の影響も合わせて調査することを目的としております.
震災が心理的苦痛・平均歩数・骨密度に与える影響
今回の調査では様々なデータを収集しておりますが,家屋被害の大きさと有意な関連が示されたのは,心理的苦痛・平均歩数・骨密度であったと報告されております.
心理的苦痛の評価に関してはK6スコアが使用されておりますが,家屋被害の大きかった人で心理的苦痛のリスクが高いと報告されております.
震災から4年という長期間が経過してもいまだに心理的苦痛を抱えて生活されている方が多く,今後も継続的な支援が必要であると考えられます.
また身体活動量の指標となる平均歩数は,ベースライン調査から引き続き,家屋被害が大きい人で低い平均歩数が継続しているという結果でありました.
さらに興味深いのは骨密度です.
骨密度にも家屋被害の大きさと有意な関連を認めており,「家屋被害→平均歩数低下→骨密度低下」という負の循環が発生していることが推測されます.
こういった結果を考えると,被災の大きかった人に対しては積極的な外出を勧奨する等,身体活動量を増加させるための取り組みが必要であることが示唆されます.
もしかしたらわれわれ理学療法士の介入が必要な部分かもしれません.
震災がHbA1c・頸動脈内膜中膜肥厚・家庭血圧値に与える影響
一方で糖尿病の診断や血糖コントロール状況の評価に用いられる血糖値の平均を反映する指標「HbA1c」や,頸動脈内膜中膜肥厚,家庭血圧値の変化については,家屋被害の大きさとは有意な関連は認められておりません.
この研究結果から,いまだ震災被害が心身に影響を与え,一部検査データの項目にもその影響が出ていることが判明しております.
またこの研究結果から考えると,継続的に骨密度や動脈硬化などの詳細な検査を継続していき,医療的な介入を行っていくことも重要であると考えられます.
災害による二次健康被害が想像以上に大きいことを痛感させられる検討結果だと思います.
特に身体活動量の部分ではわれわれ運動の専門家である理学療法士が介入できる部分も多いにあると思いますので,こういった災害後の二次健康被害に関する調査結果にしばらく目を向けていく必要がありそうですね.
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