胸腰椎圧迫骨折というのは理学療法士が担当する機会の多い骨折の一つだと思います.
高齢者の4大骨折の1つである胸腰椎圧迫骨折は高齢化とともに増加の一途をたどっており,今後もさらに増加することが予測されます.
目次
胸腰椎圧迫骨折例に対する関節可動域評価における注意点
痛みや椎体の圧潰による脊柱の変形は,体幹や下肢を中心に関節可動域の制限を引き起こします.
急性期においては,体幹のわずかな動きや姿勢によって痛みを誘発する可能性があるため,関節可動域を測定する際にも,安全性を確保して評価を行う必要があります.
一方で慢性期では,椎体の圧潰により脊柱後彎変形が生じる可能性があります.
特に胸腰椎移行部や腰椎部の骨折においては,解剖学的に脊椎の可動性が高いため制限も生じやすいといった特徴があります.
また関節可動域測定を行う際には背臥位姿勢になることが多いですが,脊柱の後彎が進行した症例では背臥位をとるのが難しい場合があり,ベッドのギャッジアップや枕やタオルを利用して負担がかからないように環境を設定することも重要となります.
体幹の可動域測定
胸腰椎圧迫骨折例では,患部である胸椎や腰椎の可動域が制限される場合が少なくありません.
したがって胸椎や腰椎の可動域測定が重要となりますが,休幹は複合関節での動きとなるため評価時に誤差が生じやすく,評価の際には適切な固定が必要となります.
基本肢位がとれなかったり,軸が正常と逸脱している場合もあるため,関節角度計を使用した測定方法は当てはまらない場合が多いわけです.
そのため,評価時の設定方法については備考として記載を残しておくことが重要です.
日本リハビリテーション医学会が定める関節可動域測定法には,胸腰椎の屈曲・伸展・側屈・回旋可動域測定の方法が存在するわけですが,臨床でこの日本リハビリテーション医学会が定める関節可動域測定法を使用して胸腰椎の可動域を測定する理学療法士はほとんどいないと思います.
基本軸や移動軸がわかりにくく,評価としての信頼性が低いことが一番の原因と考えられます.
臨床上で良く用いられる評価方法としてはメジャーを使用しての可動域評価です.
立位にて指床間距離を計測する方法がよく用いられますが,注意が必要なのはこの指床間距離の測定には胸腰椎の屈曲可動域のみならず,股関節の可動域が含まれるといった点です.
またこの方法では胸腰椎の可動域の中でも屈曲可動域を測定しているに過ぎないという点にも注意が必要です.
立位での評価にリスクや痛みを伴う場合には,無理をせずに座位で評価する方法も有効です.
この方法は複合運動をする脊柱の動きを全体的に捉えられ,靴や靴下の着脱などの日常生活動作の可否の指標にもなります.
胸腰椎圧迫骨折の急性期においては過度な前屈動作は禁忌となりますのでこういった方法で可動域測定を行うことは避けなければなりません.
近年,脊椎の可動域測定方法として用いられることが多くなっているのがスパイナルマウスを用いた測定や,Bubble Inclinometerを用いた測定方法です.
これらの測定の利点は信頼性・妥当性の高い評価が行えるといった点でありますが,一方で測定に特殊な機器を要するといった欠点も挙げられます.
股関節の可動域測定
急性期の胸腰椎圧迫骨折例は過度な胸腰椎前屈動作が禁忌となるわけです.
われわれが体幹を前屈する際には,胸腰椎のみならず仙腸関節・股関節の運動も同時に出現します.
中でも股関節の柔軟性というのは非常に重要で,股関節の可動域が十分に保たれていれば,前屈時に胸腰椎が過度に屈曲しなくとも前屈動作を行えるわけです.
一方でハムストリングスのタイトネスなどによって股関節の可動域が大きく制限されるような場合には,体幹前屈動作時の胸腰椎の屈曲角度が大きくなってしまいます.
したがって胸腰椎圧迫骨折例の可動域を考える上では,胸腰椎の可動域と合わせて,股関節の可動域を評価することが重要となります.
運動療法を行う上でも股関節の柔軟性を向上させることで,胸腰椎の過度な運動を極力軽減させるといった考え方が重要となります.
Hip Spine Syndromeという概念も提唱されているように,脊柱の変形に伴い,上下肢に可動域制限が生じることもあるため,脊椎の可動域と合わせて隣接関節である股関節の可動域を把握しておくことは非常に重要です.
当然ながら股関節にとどまらず膝関節や足関節も立位や歩行時に影響するため併せて評価を行っておくとよいでしょう.
肩関節の可動域測定
胸腰椎圧迫骨折例において制限されることが多いのが肩関節の屈曲・外転方向の可動域です.
特に胸腰椎の伸展可動域が制限されると,肩関節屈曲・外転方向の可動域は大きく制限されます.
特に中位胸椎の骨折では肩甲骨の運動が制限されてしまいますので,肩関節屈曲・外転可動域が制限されることは容易に想像できます.
腰椎圧迫骨折例に対する関節可動域運動
痛みや安静臥床によって可動域制限が生じないよう,可及的早期から関節可動域制限の予防に努めます.
特に四肢のROMexはベッド上でも安全に施行できるため早期から介入を行いましょう.
特に股関節の可動域を維持・拡大させることで腰椎の運動を減じることができますので,股関節の可動域運動を十分に行うことが重要です.
Thomas test肢位での股関節屈筋のストレッチングやSLRでのハムストリングスのストレッチングは背臥位で安全に行えるためよく用いられます.
圧迫骨折後は脊柱後彎変形が生じやすく,骨癒合完成後も脊柱後彎化は進行する可能性があります.
一度変形した骨は徒手的な治療での回復は難しいため,臥位で可能な範囲で体幹の伸展運動を施行するほか,長時間の体幹前屈位を避けるように指導します.
疼痛が落ち着いてからは立位でも体幹の伸展運動を行いますが,疼痛の増強には注意を払う必要があります.
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