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自助・互助・共助・公助って知ってますか?
地域包括ケアという概念がリハビリテーション分野にも導入され,数年が経過しますが,地域包括ケアの中では自助・互助・共助・公助といった概念がよく取り上げられます.
地域包括ケアを推進する国の方針を考えると,理学療法士・作業療法士も自助・互助・共助・公助について十分に知っておく必要があります.
今回は,理学療法士の視点で自助・互助・共助・公助について考えてみたいと思います.
自助とは?
地域包括ケアコンセプトの共通の哲学は,補完性原理といって4つのヘルプが重曹的に組み合わされていくあり方を重視しています.
地域包括ケアのベースは自助なのです.
つまりたとえ要介護になっても,たとえ配偶者が亡くなって1人になっても,できること,および支援を得ればできるようになることは自分でするといった自助の考え方が重要となります.
また要支援・要介護状態であっても,経済力に応じて社会保険料を負担することも自助に含まれます.
自助の基盤は「意欲」と「参加」です.
こう考えてみると,自助というのはさほど難しい事柄を要求しているのではなく,介護予防を意識する,たとえ要支援や要介護状態になったとしても,専門職の支援を得つつ悪化予防に努めるための工夫をすればよいわけです.
配偶者に先立たれた男性が家事能力を身に着けることもまた自己能力の育成です.
「弱ってしまったから,奥さんが亡くなったからといって介護事業者の世話を受けるような考え方は好ましくない」とということになります.
自助を失った社会,経済は滅びます.
これは世界の歴史から学ぶことができます.
自助の精神を失ってしまった社会は長くは持ちません.
互助とは?
自助だけ,あるいは金や権力だけが表にでるようにしてしまったら,社会はぎすぎすますし,不安定になり安寧・安全は保てないでしょう.
だから自助を支援するものとして,家族の助け合い,近隣の助け合い,友人の助け合い,あるいは震災のためにボランテイアに行く活動も含めて,互助にも期待がかかっているのです.
地域包括ケアシステムが構築されれば,もっとコミュニティ単位の互助が活きるようになるでしょう.
例えばゴミ出しの手伝いでもいいし,商店街の人々が認知症の人を見守るなどの活動でも良いわけです.
互助というのは専門的な難しい作業の分担を望まれているわけではなく,身の丈の範囲で気軽な互助の発展でよいわけです.
ただし互助は金額ベースではどうしても小さいのです.
本邦で互助がいちばん多かった年は2011年です.
2011年には寄附が1兆円になりました.東日本大震災の影響ですね.
もちろんボランテイアで働きに行くとか,隣の人のごみを出す支援は金額表示にならないから別ですが,少なくとも金銭寄附に関しては,赤い羽根募金や交通遣児募金に東日本大震災の募金を加えてやっと1兆円であったわけです.
1兆円というとかなりの高額であると思うかもしれませんが,医療と介護を合わせると50兆円近くかかっていますので,互助の1兆円ではとても賄えません.
共助とは?
互助の1兆円では医師や看護師・介護従事者の賃金給与を払えないどころか,病院経営や介護事業経営は維持できないわけです.そこで強力な仕組みである共助が存在するわけです.
地域包括ケア研究会でも互助と共助という言葉は非常に細かく使い分けられております.
互助はインフォーマルな助け合い,共助はフォーマルな助け合いと覚えておくと理解が簡単です.
後者の共助というのは,自助を連帯制度化したもので,具体的には社会保険制度を指します.
両方とも共に助け合うとの日本語ですが,社会システムを考える際はこの二つを概念上分けておかないと,政策体系が混同してしまいます.
互助の場合には参加する義務はないわけです.
興味がなければ参加しなくてもいいのです.
その代わり互助の対象者となる権利は誰一人持っていないわけです.
ボランテイアの対象になる権利,募金を受け取る権利はないということです.
一方で共助には強力な義務と権利が伴います.
私たちは所得に応じて社会保険料を払わなくてはなりません.
その代わりに保険料を払っていれば医療サービス利用にあたり保険給付を受ける権利が保障されています.
同様に介護保険料を払っていれば,介護サービスを使う際に保険給付を使う権利があります.
高額療養費等の自己負担には上限も存在します.
権利性と義務が互助と共助はまったく異なるものですので,地域包括ケア研究会では概念上はっきりと分けて使用されてきました.
公助とは?
この世には共助では救えない問題もあります.
貧困問題や虐待問題は医療保険では救えません.
ドクターや看護師は虐待に対応する訓練を受けた職業ではありませんし,医療保険は虐待問題に給付する機能をもっていないのです.
ドメステイック・バイオレンスや家庭内のネグレクトをどうするか.
ここで公助が登場するわけです.
自助・互助・共助・公助
以上の4つのヘルプが重層的に支え合っていく社会を目指す.
これが地域包括ケアの背景にある考え方です.
どういう財が互助,共助,公助に属するかといった違いではなくて,同じ財であっても誰がお金を出すのかが重要です.
自助の財源は「私の財布」か「私の労力」です.
経済学では同一家計が「私」にあたります.
子どもが独立して別家計になれば「私」からは離れますが,配偶者および財布を一緒にしている子どもあるいは高齢者等を含
めた同一家計を意味します.
互助の財源は,ボランテイアをする人の金であったり、ボランテイアをする人の労力であったり,赤い羽根募金のために立っている小学生の労力だったりするわけです.
互助の場合は,「赤い羽根募金に募金せよ」と命ずる法律はなく,駅頭で赤い羽根募金に協力した通りがかりの人は誰だか分かりません.
それゆえに「誰かの財布」と表します.
それに対して私たち住民が信頼している共助(医療保険・介護保険)は「私たちの財布」に相当します.
そして最後の公助は「政府の金」が支えます.
まとめるとこんな感じです.
- 自助:利用者本人・同一家計「私の財布」,意欲と参加・自己能力の育成と活用
- 互助:提供者の資金労力・工面「誰かの財布」,インフォーマルな自発的助け合い
- 共助:社会保険「私たちの財布」,フォーマルな自助の連帯制度化
- 公助:政府・自治体=税「政府の財布」,経済的弱者保護・権利擁護等
今回は,理学療法士の視点で自助・互助・共助・公助について考えてみました.
研修会等でも自助・互助・共助・公助といった言葉が用いられることが多くなっておりますので,このあたりは知識としてきちんと整理しておきたいところです.
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