目次
理学療法士から見た変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切術(HTO)
変形性膝関節症例に対する手術療法といえば人工膝関節全置換術が一般的ですが,人工膝関節全置換術は耐久年数に限界がありますので,50-60代の方には将来的な再置換のリスクを考慮した上で,高位脛骨骨切術が適応される場合が少なくありません.
整形外科医の人工膝関節全置換術に対する考え方にもよりますが,理学療法士も高位脛骨骨切術後のクライアントを対象に理学療法を施行する機会も少なくないわけです.
そこで今回は変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切術についてご紹介させていただきます.
高位脛骨骨切術(HTO)とは?
高位脛骨骨切術(HTO)は,膝関節内反アライメントを軽度外反へ矯正することができる手術であり,膝蓋大腿関節や大腿脛骨関節外側における問題がない場合,もしくは軽度な関節症に留まる場合に選択されることが多い手術療法です.
その名の通り,脛骨結節より近位で骨切りが実施されます.
変形性膝関節症の外科的治療の主流は言うまでもなく人工膝関節全置換術(TKA)でありますが,人工膝関節全置換術(TKA)には再置換術や感染,深屈曲が多いわが国の生活習慣が問題になる場合が少なくありません.
一般的に高位脛骨骨切術(HTO)といえば人工膝関節全置換術(TKA)の前段階の外科的治療といった認識が強いと思いますが,近年では高位脛骨骨切術(HTO)の良好な長期成績も報告されており,関節温存を重要視して積極的に高位脛骨骨切術(HTO)が施行される医療機関も増えてきております.
高位脛骨骨切術(HTO)の適応は?
一般的な高位脛骨骨切術(HTO)の適応ですが,関節可動域制限が少なく活動性の高い変形性膝関節症例や内反アライメントを伴う大腿骨内頼の軟骨損傷症例,半月板損傷症例が適応となります.
以下にHTOの適応をまとめてみました.
高位脛骨骨切術(HTO)自体は以前から存在した観血的治療でありますが,固定性の問題や矯正不足,感染,骨折,神経損傷などのさまざまな問題がありました.
しかしながら近年では,ロッキングプレートや人工骨の開発,術式の改良などにより高位脛骨骨切術(HTO)の有用性が見直されてきております.
高位脛骨骨切術(HTO)の術式は?
高位脛骨骨切術(HTO)の術式には,opening wedge法とcIosed wedge法が使用されております.
固定にはロッキングプレートによる内固定,骨移植(人工骨など)が用いられます.
また骨切術を行う前に,関節鏡視にて関節内の状態を確認し,半月板や軟骨に対する処置を併行して行う場合が多いです.
最近では,術前に目指した正確なアライメントを調整することや再現ある手術を目指すため,コンピュータナビゲーションシステムを併用した手術も増えてきております.
Opening wedge法
Opening wedge法では骨切面を開きます.
皮切は膝蓋腱内側から脛骨結節までなされ,膝蓋腱の内側縁にて関節支帯を切離し,半腱様筋および薄筋と内側側副靱帯浅層の一部を骨膜から剥離します.
一般的には脛骨内側関節面から約35mm下方から骨切りが実施され,脛骨粗面は矢状断面に骨切されます.
骨切部を開大して外反アライメントヘ矯正するわけですが,一般的に矯正角は大腿骨頭中心から足関節中心を結ぶ荷重軸が脛骨内外側の62.5%を通過するように調整されます.
骨切り部に開大幅に合わせた樮状の人工骨を挿入後,ロッキングプレートにて固定します.
Closed wedge法に比べて手術侵襲が少なく,術中に開大幅の調整が可能です.
また人工骨の使用とロッキングプレートの改良によって早期より荷重練習が可能となっております.
とはいっても術後に免荷期間や部分荷重期が必要となるのがHTOのTKAと比較した際の一番の欠点でしょうか.
また骨癒合するまで疼痛が続き,疼痛が遷延しやすいのもHTOの大きな欠点となります.
骨切術によって内側関節面の荷重ストレスが減少し,関節軟骨の再生を図るのが本手術の大きな目的となります.
挿入された人工骨は,術後2~3年で吸収され自家骨に置換されます.
しかしながら同手技の短所としては,内側の軟部組織の緊張が高くなりやすいこと,膝関節伸展制限の解除がむずかしいこと,ロッキングプレートが鶯足の滑液包を刺激し疼痛が生じる可能性があること,矯正の範囲に限界があります.
理学療法を進めるうえでの注意点としては,骨切部を間大するため脚長差が生じることです.
また鶯足の縫合は非常に脆弱になることが多いため,2週間程度は薄筋や縫工筋の収縮を伴う下肢伸展挙上や股関節内転と膝関節屈曲の筋力強化を積極的に行わないように注意する必要があります.
CIosed wedge法
Closed wedge法では骨切面を閉じることからこの名がついております.
下腿中央外側から長軸方向に皮切し,筋間より腓骨を露出させ,2~3cm程度の腓骨を部分切除します.
次に骨切り部のため脛骨稜外側から長軸方向に皮切され,前脛骨筋近位付着部を含め,骨膜下まで剥離します.
脛骨外側より骨切を行い,喫状骨片を除去します.骨切り面が接するように合わせた上で,プレート固定を行います.
Closed wedge法は適切な下肢アライメントを獲得した症例の良好な成績が報告されており,比鮫的大きな変形でも対応が可能であるといった利点があります.
しかし脛骨近位を外側から棋状に骨切除を行い,外反方向へ矯正するため,腓骨を切断しなければならないといった点が大きな特徴です.
この操作によって腓骨神経麻廊を合併する可能性も考慮する必要があります.
またOpening wedge法と同様に下肢長の短縮が生じる可能性を考盧しておくことが重要となります.
以下にOpening wedge法とClosed Wedge法における大きな相違をまとめてみました.
今回は変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切術についてご紹介させていただきました.
Opening wedge法とClosed Wedge法では術後経過も大きく異なりますので,理学療法を行う上でも手術の特徴を把握しておくことが重要です.
コメント