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理学療法士であれば使用頻度の高いVAS(visual analogue scale)による疼痛評価の特徴を知っておきましょう
VAS(Visual Analogue Scale)と言えば疼痛評価に用いられることの多い評価スケールですが,実は疼痛以外にも満足度であったり,歩きやすさであったりさまざまな評価として用いられます.
理学療法士・作業療法士の世界ではかなり古くから使用されているこの評価ですが,実は多くの問題を含んでおり,測定結果の解釈にも注意が必要となります.今回はVSAについて再考してみたいと思います.
VASによる疼痛(痛み)評価の特徴
皆様もご承知の通り,痛み刺激に対する反応には個人差があります.
疼痛閾値が高く我慢強い方もいれば,疼痛閾値が低くいわゆる痛がりな方もおられるわけです.
したがって同じ侵害刺激を入力しても,痛みの感じ方はさまざまです.
また痛みというのは主観的な体験ですので,そもそも測定や評価が難しいと考える方も少なくありません.
そうは言っても痛みを測定・評価しなければ治療効果の判定もできませんので,これまでに多くの痛みの測定法が開発されてきたわけです.
その中でも最も使用頻度が高く,現在のところ疼痛評価のゴールドスタンダードになっているのがVASだと思います.
VASによる疼痛評価を行う場合には,10cmの線上に痛みの程度をクライアントに示させるのが一般的です.
VASの利点は,使用が簡単で痛みの程度をただちに評価でき数値化が容易な点です.
しかしながら痛みというのは主観的であり個人差があるため,VASを使って同じクライアントにおける痛みの経時的変化を把握する上では非常に有用なわけですが,同じ疾患をもつクライアント同士の疼痛を比較するには必ずしも適切とはいえないわけです.
VASによる疼痛(痛み)評価の方法
VASは10cmの長さの水平または垂直線を使って,左端(下端)に「痛みなし」, 右端(上端)に「耐えられない痛み」と記します.
また横軸のスケール下に浦みの程度を表す言葉(軽度‘ 中等度・重度)を入れたものもあります.
クライアントに痛みの程度を,この線上に自分の該当する部分に×印を付けてもらいます.
左端から×印までの距離を,mmの単位で測定し,0から100までの数値で痛みの強さを表します.
線に沿って言葉を入れていく方法に関しては,賛否両論あり,スケールを理解しやすいといった側面がある一方で,その言葉が位置する周辺に回答が集中しがちになるといった欠点もあります.
またVASの変法として,水平の線を10等分し,0から10までの数値を付けておくVisual Rating Scaleのような方法もあります.
こういった方法による口頭で疼痛の評価が,いわゆるNumerical Rating Scaleを使った疼痛評価の方法ということになります.
この場合は痛みの強さを10段階で表し,目盛り2の横に「弱い痛み」,4の横に「中等度の痛み」,6の横に「強い痛み」,8の横に「激しい痛み」,,10の横に「最悪の痛み」と書いて,判断の助けとすることもあります.
理学療法研究におけるVASの扱い方・信頼性・妥当性
通常は統計処理を行う場合には0~100の数値であれば間隔尺度とし,0から10段階であれば順序尺度として扱うのが一般的です.
間隔尺度として扱えばパラメトリックの検定が使用できますが,順序尺度として扱えばノンパラメトリックの検定を使用することとなりますので注意が必要です.
VASの信頼性についても検討がなされておりますが,このなかで線の長さについても検討がなされております.
同時期に複数回疼痛評価を行った際の信頼性を検討した報告では,5cmの線では短すぎて1回目に示した場所の記憶があいまいになることが多く,10~20cmの長さの線を用いることが推奨されております.
また同じクライアントを対象にして,2つのタイプのVASを用いて疼痛の評価を行った研究では,線上に何も記載されていない評価表を用いた場合には,痛みの程度は均等に分布する一方で,線の横に姉みの程度(軽度・中等度・重度)を記赦した評価表では書かれた文字の付近に痛みの程度が集中して分布することが報告されております.
さらに慢性疼痛を有するクライアントに,ある程度期間をおいて以前段階づけた点を記憶させ,再度打点させると,以前より強く段階づける傾向にあったと報告されております.
このようにVASを使用して疼痛評価を行う場合には,評価方法によって結果の分布に偏りが出る点に注意が必要です.
妥当性に関しては現在のところ報告がありません.
VASによる疼痛評価のポイント
痛みの評価など主観的な項目を評価する場合には,1度のみの評価であれば,個人差は生じますが,信頼性や再現性について論ずる必要はありません.
しかしながら治療効果などを経時的に評価する場合,前回記録した評価(直線上の位置)の記憶を完全に消失させる期間が必要となります.
したがって時間を空けて評価をする場合には,間違えても前回は5でしたが今回はどうでしょう?などといった疼痛の聞き方をしてしまうと,先入観が入ってしまい,客観的な疼痛評価ができないといった点に注意が必要です.
VASとNRSの違い
VASに類似した疼痛の評価方法にNRS(Numerical Rating Scale)が挙げられます.
NRSでは被検者の痛みの程度を0~10の11段階に区別し,痛みが全く無い状態を0,過去に経験したことに無い強い痛みを10として,現在の疼痛のレベルを点数化したものです.
NRSの利点としては,実施方法が簡単なことが挙げられます.
基本的には口頭での聴取になりますので,VASのように疼痛評価シートが不要なわけです.
欠点としては痛みの質によってNRSのスコアの信頼性が低くなることです.
NRSは順序尺度,VASは間隔尺度として扱うといった点も重要でしょうね.
NRSは基本的には口頭での質問形式による痛みの検査となりますので,言語理解能力に乏しい重度の失語症や,意識レベルが低いクライアントを対象とすることが難しいというのもNRSの限界でしょう.
今回はVASによる疼痛評価について考えてみました.
どういった方法で行っても疼痛の評価というのは主観的なものにならざるを得ません.
最近は副交感神経活動や唾液によるストレス測定を行う等の,客観的な疼痛の評価方法も開発されてきております.
理学療法士・作業療法士にとって疼痛の評価というのは欠かすことができませんので,今後は簡易に行える客観的な評価方法が普及することを期待します.
参考文献
1)Keele KD: The pain chart. Lancet2:6-8, 1948.
2)Hardy JF:Pain sensation and perception. Williams and Wilkins, Baltimore, 1952.
3)Scott J.: Graphic representation of pain Pain2: 175-184, 1976.
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