私が理学療法士になった2000年代前半には,理学療法士・作業療法士の学会発表や論文の中にも在院日数をアウトカムにした発表ってとても多かったのですが,最近在院日数をアウトカムにした発表って少なくなってきているように感じます.今回は理学療法士の視点で在院日数について考えてみたいと思います.
在院日数短縮化をめざして QOL向上のために / 保坂隆 【本】
目次
クリニカルパスと在院日数
2000年代前半の医療における大きな変化として診療にクリニカルパスが導入されたことが挙げられます.クリニカルパスというのは病気別・治療法別に,入院中に行われる検査・手術・処置・リハビリなどの医療行為や,食事や安静度などのクライアントの療養に関する予定を記載した計画表のことです.今のこの時代において急性期病院でクリニカルパスを使用していない医療機関は皆無に近いと思いますし,電子カルテの中にもクリニカルパスのシステムが組み込まれておりますので,今や当たり前のようにクリニカルパスが使用されている状況かと思います.かくいう私も遠路はるばるクリニカルパスの聖地である熊本まで研修に行ったのを記憶しておりますが,当時はクリニカルパスの導入によって在院期間が短縮できたといったような内容の発表や論文が非常に多い時代でした.医療やリハビリテーションのアウトカムとしても在院日数が普通に用いられていたわけです.
在院日数を短縮する美学
理学療法士・作業療法士はそうではないかもしれませんが,二次救急・三次救急を担っている医療機関の看護師もしくは地域連携室というのは,在院日数の短縮に偏重した考えを持っている方が少なくありません.在院日数を短縮することだけが全てと言わんばかりに転院調整をしているソーシャルワーカーも少なくないわけです.現在の入院基本料においても,平均在院日数は7対1入院基本料で18日,10対1入院基本料21日以内にする必要があるわけですので,こういった状況も制度を考えれば,いたしかたないわけです…私が納得いかないのは,国からは平均在院日数が短い方がより質が高いと評価されるといった点です.つまり在院日数=医療の質とすらとらえられているわけです.医療の質の高い医療機関ほど疾病が早く治癒するのですから在院期間も短くなるのは当然だという風にも考えられますが,一方で十分に回復していないにもかかわらず,クライアントに退院を迫れば在院期間は簡単に短くなります.在院期間が数日長くとも高いADLを獲得して退院した方が当然ながら医療の質としては高いという風にも考えられますが,現状ではとにかく在院期間が短いことが優先されるような世界です(今の社会保障費の事情を考えれば仕方ない部分もありますが…).
回復期リハビリテーション病棟における在院期間
リハビリテーションの分野では回復期リハビリテーション病棟が各地に増え,長期のリハビリテーションを必要とするクライアントについては回復期リハビリテーション病棟へ転院するといった流れが確立しているわけですので,対象疾患は限られてはおりますが,長期にわたるリハビリテーションが必要な場合には,早期に急性期から回復期へ転院をすればよいということになります.回復期では在院期間がどのように扱われているかといいますと,回復期リハビリテーション病棟に関する診療報酬制度にはアウトカム評価といった指標が導入されており,このアウトカム評価に当たってはFIMにおける運動項目合計の利得を在院期間で除したFIM効率が1つの指標として用いられます.つまり在院1日当たりの日常生活動作能力の改善率をアウトカム評価の指標としているわけです.ADLが全てだとは思いませんが,回復期リハビリテーション病棟の使命というのはやはりADLを向上させることに尽きると思います.したがってこの在院期間を使ったこの指標というのは,いくつかの問題は指摘されているものの,リハビリテーション領域の1つのアウトカムとして妥当であると考えます.
在院日数はリハビリテーションのアウトカムになり得るのか?
個人的には急性期医療機関における在院日数というのは,特にリハビリテーション領域ではアウトカムになりえないと思っております.在院日数というのはその時の入院患者数にも左右されますし,後方病院の空床状況によっても簡単に変動します.したがって,急性期医療機関においてリハビリテーションの効果について,在院日数を指標として行うことにはあまり意味が無いと考えております.回復期においては前述したようにFIM効率のような指標を用いることにある程度の意味はあると思いますが…
今回は理学療法士の視点から在院日数について考えてみました.前述したように急性期医療機関の中でも看護師や地域連携室スタッフは在院日数を短縮させることに重きを置いて仕事をされていることが少なくありません.各医療機関の事情もあり病院の流れに乗らざるを得ない場合も少なくないと思いますが,われわれ理学療法士・作業療法士はリハビリテーション専門職の立場から,クライアントの立場に立った提言をできる職種だと思いますので,時にはそういった関わりができる専門職でありたいですね.
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