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キッキング運動による筋力トレーニングを行う際の注意点
徒手による筋力トレーニングの中でキッキング運動を使った筋力トレーニングというのは理学療法士・作業療法士が行うことの多い筋力トレーニングプログラムの1つだと思います.
このキッキングを見れば,ハンドリングの技術がどの程度かを判断できるわけですが,キッキング運動も方法によって得られる効果が全く異なります.
今回はキッキング運動による筋力トレーニングを行う際の注意点について考えてみたいと思います.
キッキング運動ってどんな運動?
キッキング(Kicking)運動というのは,「背臥位で対象者の足底に理学療法士・作業療法士の手を当て,その手をクライアントに蹴るように伸ばしてもらう(理学療法士・作業療法士はその蹴る力に抵抗を加える)」といった運動です.
キッキング運動は「股関節・膝関節に荷重刺激を加えながら,多関節の動きを伴う運動」ということになりますが,OKC・CKCといった概念で考えると荷重刺激は加わるものの遠位部は固定されていない運動となりますので,自転車のペダリング運動と同様にSemi-CKC運動と考えることができるでしょう.
このキッキング運動は,自重での負荷などに比較すると負荷としては非常に弱いわけですが,臥床傾向な高齢者の「準備運動」的な手段として用いられることも多いと思います.
荷重刺激を入力したいけれども,荷重下での運動は運動負荷が強すぎるといった場合には,まずキッキング運動を使用して準備をするといったような使用方法です.
このキッキング運動は多関節のトレーニングでありますので,下肢筋の協調した収縮が促通することができます.
また適度な刺激による「滑液分泌の促進」や「感作の抑制」にもつながります.
キッキングの運動方向により筋活動が変化する
同じキッキング運動であっても運動方向によって筋活動が大きく変化します.
赤色のlineの方向にキッキングすると,股関節のモーメントアームが膝関節のモーメントアームより大きくなりますので,大殿筋・ハムストリングスといった股関節伸展筋群優位でのキッキングとなります.
一方で青色のlineの方向にキッキングする際には,膝関節のモーメントアームが股関節のモーメントアームよりも大きくなりますので,大腿四頭筋をはじめとする膝関節伸展筋群優位のキッキング動作となります.
つまり股関節伸展筋群と膝関節伸展筋群のどちらが優位に働くかは,キッキングする方向によって決まるわけです.したがって目的に合わせて運動方向を誘導しながら抵抗を加えることが重要となります.
キッキング運動時の踵の高さが重要
キッキング運動時の踵の高さというのも非常に重要です.
踵がマットと同じ高さであれば,股関節・膝関節は同じ角度を保つように伸展していくわけですが,踵の高さが高いと膝関節の伸展運動が先行し,その後に股関節の伸展が出現することになります.
また踵の高さが高いと下肢がマットに落下しないように股関節の屈筋群の収縮が入ってしまいます.
この運動の場合には股関節・膝関節が同時に伸展していきますので,股関節屈曲作用のある腸腰筋は活動しにくい一方で,大腿直筋の活動が優位となります.
特に大腿骨近位部骨折例や変形性膝関節症例というのは大腿直筋が過活動を起こしている場合が多く,大腿直筋による過活動によって二次的な疼痛が出現する場合が少なくありません.
こういった症例に対して踵が浮いた状態でキッキング運動を行えば,さらに大腿直筋の過活動を助長してしまうことになります.したがって踵を浮かせることなくキッキング運動を行うことが重要となります.
さらにわれわれの起立・歩行動作を考えた場合には,股関節・膝関節を同期させて運動を行うのが非常に効率的です.
股関節・膝関節が同じ角度ずつ伸展していけば,重心の前後への移動が少なく効率的な起立動作を行うことができますが,はじめに膝関節が完全伸展して,その後に股関節が伸展していくような起立動作では,重心が一度大きく前方へ移動した後に,再度後方へ重心が移動するといった非効率的な起立動作となってしまいます.
踵の浮かせることなくキッキング運動を行えば,こういった効率的な起立動作につなげることもできると思います.
今回は理学療法士・作業療法士が筋力トレーニングとして実施することの多いキッキング運動について考えてみました.非常に単純な運動ではありますが,運動方向や踵の高さといった理学療法士・作業療法士のハンドリングの方法によって,得られる効果も変化しますので,目的を考えた上で適切にハンドリングを行うことが重要となります.
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