身体活動量の増加が健康寿命を延伸し,身体活動量の低下がさまざまな疾病のリスク要因となることが明らかにされ,理学療法士にとっても身体活動量評価というのは非常に重要な評価項目の1つであります.最近では疼痛を評価する際の1つの指標としても身体活動量が用いられ,術後成績の1つのアウトカムとしても身体活動量が用いられるようになってきております.今回は身体活動量の評価について考えてみたいと思います.
山佐時計計器 活動量計MY CALORY MC-500【万歩計・歩数計・消費カロリー測定器】
目次
身体活動量とは?
身体活動とは,安静よりさらに骨格筋を使ってエネルギーを発生している状態で, 1日の運動や家事などの日常生活活動の合計を指します.活動量の臨床的な評価には歩数(歩/日)と身体活動量(エクササイズ)が用いられます.歩数というのは単純に歩数計を装着して1日に何歩歩いているかを評価するものです.厚生労働省による健康日本21における「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」では,生活習慣病の予防などのために2022年度までに獲得する歩数が示されており,今後1日平均1,500歩増加させることが目標に掲げられております.一方で身体活動量(エクササイズ)といった概念は,運動強度(METs)と運動時間(時)の積で算出されるため,実施する運動強度も重要となります.例えば階段昇降は約6Metsとなりますので,1時間行うと6エクササイズということになります.「健康づくりのための運動指針2006-生活習慣病予防のために(エクササイズガイド2006)」では,メタポリックシンドロームをはじめ生活習慣病発症を予防するための身体活動量の基準値が示されております.このエクササイズガイドによると1日60分, 1週間に23エクササイズの身体活動量を確保することが指針として掲げられております.
臨床における身体活動量評価とは
臨床で簡易に身体活動量を評価する際には,歩数計の利用が有効です.歩数計は安価で操作も簡単であるため導入しやすい入院中から装着し,歩数を評価することで退院後の生活指導に活かすことができます.入院中から歩数計を装着する習慣を身に付けることができれば,退院後も身体活動量を向上させるための行動を継続させることができる可能性が高いからです.歩数計を装着して身体活動量を評価する際には注意点があります.実は歩数計を装着してモニタリングするだけで身体活動量というのは増加します.すなわち歩数計を装着した時点で,測定バイアス(装着することによる正の効果)が出現してしまうといった点に注意が必要です.介入といった意味で考えれば装着することで簡単に身体活動量を増やすことができるといった捉え方もできます.万歩計を使用した身体活動量に関する報告をみると,入院中のクライアントの平均活動量は3,000歩程度と報告されております.これを1つの基準に活動量の指導を行うと良いですが,まずは数日間の身体活動量を評価した上で,平均的な身体活動量に+500歩または+1000歩をはじめの目標にすると,容易に成功体験を得られ,自己効力感が高まりやすいです.
最近では,耐糖能異常を有する症例においてもで活動歩数が1年間で2,000歩増加すれば心疾想のイベントを8%抑えられること,心臓外科手術後の退院前の平均歩数は2,460歩であり手術後1年後の主要心血管イベント発生による再入院となるカットオフ値は1,308歩であったこと,多施設研究による高齢心不全の退院時平均歩数は2,574歩であり,年齢ならびに重症度に伴い減少する傾向にあったと報告されており,内部障害の領域では身体活動量の評価は欠かせない評価介入指標といえます.
より客観的に身体活動量を評価する上では活動量計が有用ですが,活動量計は値段が高く,安易にクライアントに購入するよう勧めるのは難しいといった限界もあります.実際は運動強度の低い運動を長時間続けることよりも,ある程度強度のある運動を1日の活動の中に取り入れる方が,運動の効果が得られやすいことが報告されており,可能であれば加速度計が搭載された活動量計を用いて,運動強度も含めた身体活動量を評価する方法が勧められます.
身体活動量を評価する際の注意点
身体活動量を評価する際には,万歩計や活動量計の使用方法についてもクライアントに十分に指導を行う必要があります.クライアントはウォーキングなどの運動を行う際だけに万歩計や活動量計を装着するといった方が少なくないわけですが,身体活動量を測定する際には入浴時を除いて常時万歩計や活動量計を装着していただく必要があります.また必ず日々の結果をセルフモニタリングしてもらう習慣をつけてもらうことが重要です.入院中にセルフモニタリングをする習慣も合わせて身に付けることができるように関わることもわれわれ理学療法士にとって重要な役割となります.
今回は身体活動量の評価についてご紹介いたしました.理学療法士にとって身体活動量の評価というのはまだまだ足りない視点だと思いますが,今後は身体活動量をアウトカムとした研究報告も増えていくでしょうね.
参考文献
1)厚生労働省:健康日本21「国民の健康の増進の総合的な推進を図るための基本的な方針」
2)Bravata DM, et al : Using pedometers to increase physical activity and improve health: a systematic review. JAMA298: 2296-2304, 2007
3)青柳幸利;サルコペニア,フレイルにおける性差を考える(中之条研究).GeriatMed52: 343-347, 2014
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