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大腿骨近位部骨折後の膝痛
大腿骨近位部骨折後に骨折部や創部の疼痛が軽減したにもかかわらず,膝痛が出現して歩行獲得に難渋するケースというのは少なくありません.
こういった大腿骨近位部骨折後に膝痛が出現する症例の中には,もともと変形性膝関節症を合併している症例も少なくありませんが,骨折以前には歩行が困難となるほどの膝痛ではなかったのに,骨折に伴い膝痛が強くなったと訴える症例は少なくありません.
今回は大腿骨近位部の骨折後の膝痛について考えてみたいと思います.
大腿骨近位部骨折例における膝痛の原因
大腿骨近位部骨折後に膝痛が出現する原因としてはさまざまな原因が考えられますが,今回は①軟骨代謝の減少,②回旋軸偏位による膝関節へのメカニカルストレスの増加,③股関節外転筋力低下といった面から大腿骨近位部骨折後の膝痛について考えてみたいと思います.
①軟骨代謝の減少
大腿骨近位部骨折後には骨折部に加え術創部の疼痛により術後早期には膝関節に加わる荷重負荷が減少する場合が少なくありません.
最近は大腿骨転子部骨折の一部の不安定型骨折や大腿骨転子下骨折を除いては,術翌日から荷重歩行が許可される場合が多いと思いますが,全荷重が許可されていても骨折部や術創部の疼痛のために膝関節へ加わる荷重量が減少してしまいます.
われわれの関節というのは関節運動や荷重がなされることで滑膜から滑液が産生され,この滑液によって軟骨が栄養されているわけです.
骨折後に一時的にでも荷重量が減少すると,滑液による緩衝作用が働きにくくなるとともに,軟骨代謝が減少してしまうため,結果的に膝痛が出現するのです.
このように軟骨代謝の減少が膝痛の原因となっている場合には,徐々に荷重歩行を進めていくと膝痛に軽減が得られることが多いです.
②回旋軸偏位による膝関節へのメカニカルストレスの増加
大腿骨近位部骨折例の手術療法では解剖学的整復位の獲得を目標に整復が行われるわけですが,骨折によっては解剖学的な整復が困難で大腿骨が回旋位で整復される場合があります.
遠位骨片が回旋位で固定されている場合には,当然ながら膝関節にも荷重位での回旋が強制されるため,これが原因で膝痛が出現する場合があります.
こういった症例においては回旋ストレスの方向を考えた上で足部から回旋ストレスを減じるためのアプローチが有効です.
具体的には足底板を使用することでこのような回旋ストレスによる膝痛は軽減が得られる場合が多いです.
③股関節外転筋力低下
大腿骨近位部骨折例においては中殿筋をはじめとする股関節外転筋群に侵襲が加えられる術式が少なくありません.
加えて大腿骨頸部骨折に対してピンニングによる骨接合術が施行された場合や,大腿骨転子部骨折に対してCHSやγ-nailによる骨接合術が行われた場合には,荷重に伴い大腿腿骨頸部が短縮してしまうことが多いわけです(SlidingやTelescopingと呼びますがこの点に関しては以前の紹介記事をご覧ください).
このような中殿筋に対する侵襲や頸部の短縮によって股関節外転筋力が低下すると立脚期に骨盤が遊脚側へ傾斜してしまいます.
いわゆるTrendelenburg兆候が出現した状態です.
このTrendelenburg肢位では遊脚側へ身体重心が移動し,立脚側の膝関節内反モーメントが増大してしまいます.
現在のところ外転筋力低下と膝関節内反モーメント増加の因果関係は明らかにされていおりませんが,骨折・手術によって突如生じた外転筋力低下は,内側脛骨大腿関節への力学的負担を増大させ膝痛を惹起する一因となると考えられます.
こういった症例の場合には股関節外転筋力を向上させ,骨盤の遊脚側への傾斜を軽減させることが重要となります.
今回は大腿骨近位部骨折例の膝痛について考えてみました.
実際に大腿骨近位部骨折例を診療しておりますと,骨折部や術創部の疼痛よりも膝痛が問題になって歩行の獲得が遷延する症例は少なくありません.
膝痛発生のメカニズムを考えた上で対処することが重要だと思います.
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