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理学療法士・作業療法士の皆様は予後予測ってどうしてますか?
どこまで回復するのかを予測した上で,代償手段も含めて支援を行うことがわれわれ理学療法士・作業療法士にとっての重要な役割となります.
臨床実習においても担当症例の予後を予測することは非常に重要で,目標設定を行う場合にも,クライアントの予後を考えた上で目標を設定する必要があります.
臨床実習指導者からも予後予測をきちんと行いなさいといった指導を受けることは少なくないと思います.
症例からどのくらいまで回復するかと聞かれて,何とかごまかして答えるということも少なくないのではないでしょうか.
例えば錐体路の中でも内包後脚に大きな梗塞巣を有する脳梗塞例では運動麻痺の回復が芳しくないことを踏まえた上で,最終的なゴールを決定する必要があります.
大腿骨近位部骨折例においても重度の認知症を有する症例や,受傷前の日常生活動作能力が低い症例は手術後の回復が不良であることが明らかにされております.
今回は理学療法士・作業療法士が行う予後予測について考えてみたいと思います.
予後予測を行うのに必要なデータが少ない
一般的に予後の予測がどのように行われているかという話ですが,大部分は経験則に基づいて予後を予測ていることが多いと思います.
自身がこれまでに担当した症例の中から,機能的に類似したあのクライアントがこのくらい回復したのだから,このクライアントもこのくらいは回復するであろうといった予測を立てるわけです.
こういった経験則に基づく予後予測というのは当然ながら経験の少ない臨床実習生が行うことは不可能に近いわけです.
それを求められても…といったところだと思います.客観的に予後を予測する上では文献的に予後を予測することが重要となります.
予後にもいろいろある
予後にもいろいろありますよね.
歩行が将来的に自立するのかとか,最終的に退院できるのかとか,大腿骨骨折を受傷後5年後の生命予後はどうなのかとか,予後予測もさまざまです.
したがって予後を予測する場合には,運動機能を予測するのか,歩行の可否を予測するのか,転帰を予測するのかなど,どういった予後を予測するのかを考えることも重要です.
最近はDiffusion Tensor Tractgraphyと呼ばれる拡散テンソル画像を用いて垂体路における神経線維を描出する方法で,錐体路がどの程度保たれているかを評価する方法が,脳卒中の運動機能や歩行の予後予測の指標として用いられるようになってきており,高い予測精度が明らかにされておりますが,時代によって予測に用いられる変数も変化してきております.
多変量解析を用いた予後予測
統計パッケージソフトが統計学の詳しい知識がなくても使用できるようになってきている最近では,ロジスティック回帰分析や重回帰分析を用いた予測モデルが多く報告されております.
こういったモデルを使用すればある程度予後の予測が可能なわけですが,多変量解析を用いた予後予測にもいくつかの限界があります.
まず報告されているモデルは脳卒中や大腿骨骨折例等の理学療法士・作業療法士が対象とすることの多い症例に関するものがほとんどで,症例数が少ない疾患に関しては予測モデルに関する報告が少ない現状があります.
またこういったモデルの予測精度を見てみるとおおよそ80%程度です.5人に1人は誤った予測結果になるといったモデルでは,臨床上はあまり使えないのではないかといった意見もあります.
また誤判別症例を解析してみると,経験則でも予測に悩むような症例が多く,一方で正判別できている症例は経験則でも十分に予測が可能な症例であったりしますので,このあたりが予後予測における多変量解析の限界であると考えられます.
加えて回帰分析を行った場合には回帰式が完成するわけですが,実際に臨床現場でこういった回帰式を使って予測をしようと思うかというと複雑すぎて数式に当てはめて予測をしてみようといった気にならないことが多いのではないかと思います.
特にロジスティック回帰分析の場合には,回帰モデルに対数を含んでおりますので,素人にはますますわかりくくく使用しようと思う人はほとんどいないでしょう.
これに対して最近報告が増えているのが決定木(Decision Tree Model)を使用した予後予測です.
この決定木を使用した予測は視覚的にもわかりやすく臨床でも使用しやすいと思いますが,一方で分析に多くのサンプルサイズが必要であるといった限界や,分析できるソフトが限定されているといった限界も挙げられます.
脳卒中の機能評価と予後予測新版 [ 中村隆一(リハビリテーション) ]
今回は予後予測について考えてみました.
経験年数の浅い理学療法士・作業療法士が的確な予後予測を行うには,文献的な予測に頼らざるを得ません.また予後予測の精度を向上させるには,われわれが経験則で行っている予測をデータとして分析する必要があります.
決定木分析のような解析にはビッグデータの分析が必須となりますので,多施設共同研究も含めて研究に取り組む必要があると思います.
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