臨床実習といえば理学療法士養成の中では欠かせない単位の1つでもありますし,実習生にとっては国家資格を取得するまでの過程でいえば,非常に大きな山の1つであります.
実は理学療法士の臨床実習は2020年4月入学生から大きく変わる方向で準備が進められております.
2020年以降の大きな変更点は,単位数・臨床実習指導者の要件・教員の要件などが挙げられておりますが,合わせて臨床実習の在り方についても検討がなされております.
今回は臨床実習の今後について考えてみたいと思います.
目次
いつから変わるの?
2017年12月厚生労働省「理学療法士・作業療法士学校養成施設カリキュラム等改善検討会」の報告書がによると,理学療法士・作業療法士の養成カリキュラムが約20年ぶりに改正され,2020年4月の入学生から適用されと記載されております.
養成校でも2020年4月入学生からの適用に向け,2019年の春頃には自治体や厚労省・文科省にカリキュラムを提出し認可を受ける必要があり,各養成施設は2018年の夏頃にはある程度内容を固められるよう,準備が勧められております.
何が変わるの?
総単位数
卒業までに必要な総単位数は理学療法士・作業療法士ともに8単位増え,総単位数は「101単位以上」となります.
この単位数の増加に伴って,「画像評価」や「多職種連携」,「予防」など学習範囲が拡大します.
さらに職場管理や職業倫理などを学ぶ「理学療法管理学,作業療法管理学」が新設されたのも大きな特徴です.
臨床実習の単位数についても変化があり,理学療法士では2単位増の20単位,OTでは4単位増の22単位となります.
また臨床実習の単位数が増加した一方で,臨床実習の1単位の時間数については「40時間以上で実習時間以外に行う学修等がある場合にはその時間も含め45時間以内」と上限が新たに設けられました.
これまで学習時間の上限頭位のは設けられていなかったわけですが,レポート漬けの実習で実習時間外の学習課題の過多を考慮してこういった基準が設けられるようになったわけです.
実習の1単位が平日5日間で構成されるとすれば,1日当たりの上限は「8時間の実習+1時間の自己学習」ということになるわけです.
実習時間外に長時間学習させるのではなく実習時間内に実りある学習をさせるOn the job形式の実習が重要になるわけです.
自己学習時間が1時間ですのでレポートに偏重した形式の実習もこれで無くなる方向に話が進みそうですね.
実践理学療法スーパーバイズマニュアル 写真で学ぶ臨床実習のポイント [ 新田收 ]
臨床実習の在り方 患者担当型からレポート無しの診療参加型へ
臨床実習のあり方も患者担当型から診療参加型への変更が明示されております.
理学療法士・作業療法士の実習には見学実習,評価実習,総合臨床実習と様々な形式がありますが,評価実習と総合臨床実習については「診療参加型臨床実習が望ましい」との記述がガイドラインとして追加されたのです.
実習の方法について指定規則やガイドラインで言及されるのはこれまでに例がなく,大きな転換点とも言えます.現在でも従来型からクリニカルクラークシップ形式への実習形式へ変換がなされておりますが,患者さんの安全性や権利を守る上では,これだけ理学療法士・作業療法士も増えましたので,クリニカルクラークシップ形式での実習への転換というのは時代に即したものと考えることができるでしょう.
実習場所,実習指導者要件
実習場所や指導者要件についても大きな変更がありました.
これまでは実習場所については3分の2以上を病院または診療所で行うという規定になっておりましたが,3分の2以上を「医療提供施設」で行うことといった基準に改正されます.
あまり変化が無いように感じるかもしれませんが,医療提供施設には介護老人保健施設なども含まれますので,介護保険分野の実習先の割合が今後は増えるということですね.
これも介護保険分野での求人が増えている理学療法士・作業療法士の現状に即した改訂ですね.さらに場所については「訪問リハビリテーションまたは通所リハビリテーションに関する実習を1単位以上行うこと」との規定が追加されます.
1単位というと5日間の実習になるわけですが,これが意外にハードルが高いのではないでしょうか.
1つの法人の中に医療機関・診療所・通所・訪問と多様なサービスを持っている施設であれば,柔軟な対応ができるでしょうが,養成校もこの部分については頭を悩ませているようです.
2年次の見学実習を訪問・通所リハビリテーション施設でと考えている養成校も多いようです.
指導者要件については,「5年以上の経験」に加え厚労省が指定した講習会の受講が必須となります.
この講習会は医師の臨床研修指導者向けのものをモデルに,16時間以上のワークショップ形式で行うとされています.
臨床実習指導というと負担しかないといった印象を持っている有資格者も少なくないと思いますので,果たしてどのくらいの割合の理学療法士がこの講習会を受講してでも臨床実習を通じて理学療法士を育成したいと思うかというところが問題となります.
私の予想ではこのような厳しい臨床実習指導の要件が加えられるのであれば,実習は受け入れないといった施設も多くなるのではないでしょうか.
つまり臨床実習指導者が足りなくなることが予想されます.このあたりは協会としても臨床実習指導に対するインセンティブを付与しなければ,多くの養成校が困惑してしまう事態になるのではないかと思います.
現在のところ都道府県士会が主体となって,研修会を無料で開催する予定で話は進んでおりますが,研修会受講に関しては交通費や休日を使ってということになると思いますので,このあたりに何かしらの金銭的なインセンティブが無いと講習会を受講したいと感じる理学療法士は多くないのではないでしょうか.
専任教員の要件
専任教員の要件についても変更される予定です.
現在は理学療法士・作業療法士として5年以上の業務経験があればよいわけですが,今後は厚労省が指定した専任教員養成講習会を修了することが必要です.
講習会は17単位(360時間)以上で,教育原理や授業設計の方法など,教育の基本的な手法を学ぶことが想定されております.かなりの時間数ですが,これは全ての養成校の教員が受講することになりそうです.
そもそも理学療法士というのは教育に関して学んでいない方が多いわけですので,こういった講習会を通じて教育について学ぶというのは非常に意味があることだと思います.
セラピスト教育のためのクリニカル・クラークシップのすすめ第2版 [ 中川法一 ]
今回は2020年以降の臨床実習について考えてみました.
今回ご紹介した内容については完全な決定事項ではありません.
今後もさまざまな意見を聴取した上で制度の細かな調整がなされるものと思われます.
臨床実習の担当を受け持たれている理学療法士・作業療法士の方は,今後も新しい情報に目を向けておく必要がありそうですね.
後日,厚生労働省から出された理学療法士・作業療法士の臨床実習に関するガイドラインの記事も追加いたしましたのでそちらもご覧ください.
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