理学療法士の役割の1つとして対象者の移動能力を的確に評価して,適切な歩行補助具を選定するといった役割が挙げられます.歩行補助具にはさまざまな種類のものがありますが,対象者の移動を支援するためには適切な歩行補助具を選択することが重要となります.今回は歩行補助具の特徴について考えてみたいと思います.
目次
歩行補助具の目的
歩行補助具を使用する場合にはさまざまな目的が挙げられますが,理学療法士の視点から考えると以下の視点が非常に重要です.
①免荷により下肢関節への負担を軽減する
対象者が荷重時の疼痛を有する場合には,免荷によって荷重痛を軽減させるために歩行補助具を使用します.
②支持基底面を広げ歩行を安定させる
対象者の歩行時のバランスが不良である場合には,支持基底面を拡大させることで歩行を安定させるために歩行補助具を使用します.
免荷により下肢関節への負担を軽減する
前述したように骨折後や変形性関節症などによって荷重時に下肢関節の疼痛を訴える場合には,免荷の程度を考えて歩行補助具を選択する必要があります.
上の図は免荷の程度を歩行補助具別に表したものですが,同じ歩行器であっても固定型歩行器と歩行車では免荷の程度が異なります.また同じ杖であってもロフストランド杖・4点杖・1本杖では免荷の程度が異なるわけです.シルバーカーなどは歩行補助具の大きさとしては大きい補助具になりますが,十分な下肢の免荷が図りにくい歩行補助具であることを知っておくと良いです.
支持基底面を広げ歩行を安定させる
歩行補助具によって支持基底面も変化します.ここでは歩行の立脚期すなわち単脚支持期を考えて歩行補助具の使用によってどの程度支持基底面を広げることができるかを考えてみたいと思います.
特殊杖に分類されるロフストランド杖と4点杖ですが,免荷といった視点ではロフストランド杖が有利ですが,支持基底面の拡大といった面では4点杖の歩行が有利なのです.また2本杖や両松葉杖の使用に比較しても,固定型歩行器を使用した場合には最も大きな支持基底面を確保することができます.
歩行補助具を選択する際の基本的な考え方
転倒を予防するといった視点で考えますと,基本的に片脚立位(5秒以上)ができない場合は何らかの歩行補助具を使用すべきだと思います.歩行補助具を使用する場合には,歩行補助具を利用して片脚立位を評価しどれだけの違いが出るかを確認することが重要となります.歩行補助具の話からは外れますが,住宅改修(手すりの設置)を考える場合にも手すりを持って片脚立位時間が延長するかどうかを確認すると手すりの必要性を評価することができます.
歩行補助具別にその利点・欠点を考えてみました
1本杖
利点
- 折りたたみのものであれば鞄に入れて外出できる
- 最も安価
- 外観が大袈裟でない
欠点
- 免荷率は最も低い
- 使用による支持基底面拡大も最も狭い
- 介護保険での貸与が困難
4点杖
利点
- 1本杖よりも免荷率は高く,使用による支持基底面拡大も大きい
- 手を離しても倒れない(洗面等の両手動作)
- 介護保険での貸与が可能
欠点
- 4点が同一の高さでないと安定しない(基本的に屋内での使用)
- 1本杖よりやや高価
- 重い
- 前型歩行は困難
ロフストランド杖
利点
- 握りと前腕の2点で支えることができ,握力が十分にない対象者にも使用可能
- 関節リウマチなど手指の変形を有する対象者も使用可能
- 1本杖や4点杖よりも免荷率が高い
欠点
- 支持基底面の面では1本杖と同様
- 1本杖よりやや高価
- 起立・着座動作の妨げとなる
シルバーカー
利点
- 1本杖よりも使用による支持基底面拡大が大きい
- 座位で休憩できるタイプのものがある
欠点
- 介護保険での貸与が困難
- 十分な免荷が困難
- 屋外や広い屋内のみでの使用に限られる
- 中年者には受け入れられにくい
歩行車
利点
- 1本杖よりも免荷率は高く,使用による支持基底面拡大が大きい
- シルバーカーよりも十分な免荷を図ることができる
欠点
- 屋外や広い屋内のみでの使用に限られる
- 外観が大袈裟で中年者には受け入れられにくい
固定型歩行器
利点
- 1本杖よりも免荷率は高く,使用による支持基底面拡大が大きい
- 歩行車・シルバーカーよりも十分な免荷を図ることができる
- 段差の昇降が可能
- 松葉杖よりも使用が容易
欠点
- 4点が同一の高さでないと安定しない(基本的に屋内での使用)
- 夜間の使用に際して音が気になる
- 上肢の筋力が必要
松葉杖
利点
- 1本杖よりも免荷率は高く,使用による支持基底面拡大が大きい
- 階段の昇降が可能(シルバーカー・歩行器は不可)
- 屋内外での使用が可能
欠点
- 使用方法に習熟を要する
歩行補助具選択の基本的な考え方
歩行補助具を選択する際には使用する歩行補助具を使用して,どの程度活動量を確保できるかを考える必要があります.1本杖で5m何とか歩行が可能な状況よりも,固定型歩行器で100mの歩行が可能な状況の方が100倍価値があるわけです.移動(歩行)というのは身体機能を維持する上でも,最も有効な手段であることを常に念頭においておく必要があります.したがって日常生活における活動量も考慮した上で,歩行補助具を選択することが重要となります.
福祉用具使用による弊害を常に考えよう
福祉用具を使用することで動作の安定性や円滑性が増すわけですが,福祉用具を使用することが対象者にとってマイナスにならないように注意する必要があります.例えば歩行が可能な対象者が電動車を使用すれば,転倒する可能性は低くなるかもしれませんが,一方で歩行機会(下肢筋使用機会)が少なくなってしまいますので,廃用性の機能低下を助長してしまうことになります.同様に杖を使用すれば安全に移動が可能な対象者が,固定型歩行器を使用して歩行をしていれば下肢の筋活動は少なくなってしまいますので,歩行補助具の誤使用が機能低下を助長してしまうこととなります.したがって歩行補助具を選択する際には,対象者の能力に合った補助具を選択することが非常に重要となります.
今回は歩行補助具の特徴について考えてみました.簡単そうで難しい歩行補助具の選択ですが,まずは歩行補助具の特徴を理解しておくことが重要ですね.
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