今回は介護予防事業でも測定機会の多い握力について測定のポイントと測定の意義を考えてみたいと思います.握力測定の最も優れたところは簡易に測定が行えるといった点に加え,専門職ではなくてもある程度誰が測定しても信頼性の高い評価が可能であるといった点です.しかしながら手指の屈曲筋力がなぜ重要なのかとお考えの方も多いと思います.さてなぜ握力測定が重要視されるのでしょうか?
目次
握力測定のポイント
握力計を使用して最大努力にて握力 (kg) を計測します.基本的に左右の握力を測定し,測定肢位は両足を自然に開いて安定し立立姿勢とします.示指のPIP関節が直角になるように調整して測定を行います.測定は基本的に1回としますが,複数回測定する場合には,最大値を代表値とします.測定時には握力計のデジタル表示が外側になるように腕を自然に下垂し,身体に腕を接触させないように手を握ってもらいます.握力計は動かさないように測定を行うことが重要です.検者は被験者が最大筋力を発揮できるように声掛けをします.高血圧や心疾患などがある場合には,運動が禁忌でないことを確認し,息を止めることなく息を吐きながら力をいれてもらうように指示します.座位での測定方法もありますが,姿勢による変化はみられないとの報告もあり,わが国では立位での測定が主流となっております.
何のために握力を測定するのか?
握力の低下は,地域在住高齢者における将来的なADL障害,死亡リスクなどのさまざま有害事象を予測する要因としても重要であるとされております.また心疾患による死亡リスクとも強い関連性があり,血圧よりも有意に心疾患による死亡を予測することが可能であると報告されております.さらに握力は全身筋力の代表的な指標としても用いられており,筋力低下が発症リスクとなる疾患と関連することも明らかにされております.例えば握力と脳卒中,アルツハイマー病,認知症の発症リスクとの関連も報告されております.また最近ではフレイルやサルコペニアの判定基準としても握力が用いられております.
握力測定の注意点
握力は前述のように様々なリスクを予測する上で重要な要因であることが明らかにされているわけですが,あくまで健常高齢者を対象とした場合には握力が全身筋力の代表値となり得ますが,何らかの疾病を有する場合には全身筋力の代表値にならない可能性があるといった点です.特に高齢者は下肢に何らかの障害を有する場合もありますので,握力とは別に膝伸展筋力等の下肢筋力の測定を併用することが重要となります.
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握力の基準値・カットオフ値は?
握力の基準値に関してはさまざまなものが報告されておりますが,ここでは平成28年度の文部科学省の体力テストの結果をお示しします.男性では65歳以上であれば35-40kgが,女性では65歳以上であれば25-30kgが平均値と考えてよいでしょう.
カットオフ値としてはサルコペニアの診断基準となっている男性25kg,女性20kgが1つの目安になると思います.
今回,握力測定の意義と方法についてご紹介いたしました.たかが握力とお考えの方も多いでしょうが,されど握力ということで握力に対する認識を見直していただきたいですね.
参考文献
1)Newman AB, et al: Strength, but not muscle mass, is associated with mortality in the health, aging and body composition study cohort. J Geronil A Biol Sci Med Sci 61: 72-77, 2006
2)Leong DP, et al: Prognostic value of grip strength: findings from the Prospective Urban Rural Epidemiology (PURE) study. Lancet386: 266-273, 2015
3)Bullain SS, et al: Poor physical performance and dementia in the older: the90+study. JAMA Neulol 70: 107-113, 2013
4)Shimada H, et al: Combined prevalence of frailty and mild cognitive impairment in a population of elderly Japanese people. J Am Med Assoc l4: 518-524, 2013
5)Chen LK, et al: Sarcopenia in Asia: consensus report of the Asian Working Group for Sarcopenia. J Am Med Assoc 15: 95-101, 2014.
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