高齢化に伴い内科的な合併症を有する症例が増えていることもあり,対象者の体温管理を適切に行うことは安全にリハビリテーションを行う上でも重要となります.
今回はリハビリを行う際のリスク管理の中でも忘れられがちな体温について考えてみたいと思います.
目次
そもそも体温って?
体温というのは性格には身体の深部温のことを指します.
体温を評価することで,病態の把握や治療効果の判定にも役立ちます.体温は性別・年齢・自律神経機能・内分泌機能といった個人因子によっても個人差がありますし,外気温や外敵の侵入などによる環境因子によっも変化します.
さらに日内変動などによる時間因子や,運動などによる行動因子によっても変動します.
体温の評価
体温は日内変動や計測部位によっても違いがあるので,変動をみる場合には計測時間や部位を統一する必要があります.
体温の測定方法にはいくつかの方法がありますが,それぞれの方法が核心温を測定しているのか,外殻温を測定しているのかを知っておくことは体温を正しく把握するために重要となります.
評価部位としては腋窩・口腔・膀胱・直腸・鼓膜などがあります.
直腸温は核心温の良い指標と考えられており,術中の体温モニタリングや研究において用いられることが多いです.直腸温は肛門からセンサーを挿入して測定することになりますので,不快を伴い,しかも尊厳にも関係するため,臨床には普及しておりません.
鼓膜音もまた核心温を評価するために良い指標となりますが,鼓膜にセンサーを直接接触させての測定が必要ですので,鼓膜を損傷する危険性が高いといった特徴があります.そのため最近では赤外線耳式体温計を用いて測定し鼓膜温の代替とすることが多くなってきております.
膀胱温もまた核心温の指標となります.尿道を介してカテーテルを挿入して膀胱内に留置することで測定を行います.安静を必要とする集中治療室などでは尿道カテーテルを留置することが多く,膀胱温をモニタリングすることが多いです.
理学療法士・作業療法士が評価を行う場合には,簡便性や術生面から腋窩での評価が多いと思います.
腋窩温は外殻温の代表的な指標ですが,実は腋窩で測定した体温は,口腔・膀胱・直腸で測定した体温に比較して,深部温が過小評価されやすいといった特徴があることを知っておく必要があります.また環境温や汗の影響を受けやすいのも腋窩温の特徴です.
新型コロナウイルス感染拡大で販売が増えている非接触型の体温計なんかはさらに誤差が大きいので注意が必要です.
体温の生理的変動は?
ヒトの体温には周期的に変動するリズムがあります.
いわゆる日内リズムってやつですね.
一般的には午前4時ごろが最も低く,夕方になると最も高くなり,その温度差は約1℃にもなるといわれております.
またヒトの体温は生後から小児期にかけて高値を示しますが,高齢者では低下するのが一般的です.
そのため高齢者では肺炎や感染症などに罹患しても体温があまり上昇しないケースがありますので注意が必要です.
体温の基準は?
体温が35℃未満の場合には低体温と考えてよいと思いますが,衰弱や著しい低栄養甲状腺機能の低下などが低体温の原因となります.
また平常時より1℃以上高い場合には発熱と定義され,一般的に37~38℃を微熱,38~39℃を中等熱,39℃以上を高熱と分類します.
つまり発熱しているかどうかは平常時の体温(平熱)を把握しておくことが重要だということになります.発熱の原因として多いのは,炎症・外傷・手術侵襲・ウイルスや細菌感染等です.
体温が41℃を超えると,蛋白変性による不可逆的な障害を発生する可能性もありますので,高温多湿の環境で起こる熱中症や全身麻酔の合併症である悪性高体温症等には注意が必要です.
理学療法・作業療法(リハビリ)を行う上での注意点
異常な体温を呈する中で理学療法・作業療法(リハビリ)を行う場合には,自覚症状やバイタルサインの観察をしっかりと行う必要があります.また発熱時は何らかの侵襲が生体に加わっていると解釈できますので,理学療法・作業療法(リハビリ)を行う際には,疲労などの症状やバイタルサインを注意深く観察しながら,慎重に進める必要があります.
熱発時には体内の熱を外界へ逃がすために末梢血管が拡張します.末梢血管が拡張すると血圧が低下しますので,熱発に伴う血圧低下にも注意が必要です.
さらに体温には日内変動がありますので,リハビリを行う時間帯を工夫することによって,リハビリの実施が可能になることもあります.
一方で低体温の場合には,中枢神経系の働きが弱まって呼吸循環応答が抑制されやすいので意識レベルや血圧低下に注意が必要です.
何℃以上で中止する?
リハビリテーション分野ではリスク管理のためにアンダーソン・土肥の基準が昔から使用されてきましたが,実はアンダーソン・土肥の基準には体温の基準が存在しないのです.
日本リハビリテーション医学会が作成したガイドラインでは,安静時に38.0℃以上の発熱がある場合,積極的な運動療法は控えることが推奨されています.
実際には38℃以上の場合には,歩行のような身体活動は控えておいて,ベッド上でリラクセーションや関節可動域運動のみを実施するといった対応も間違いではないと思います.
いずれにしても対象者の自覚的な症状に留意するとともに,医師・看護師とも連携を取りながら熱発の原因が何なのかを情報収集することが重要だと思います.
今回は体温の評価について紹介いたしました.安全にリハビリテーションを行うためにも,低体温・発熱時のリスク管理についておさえておきたいですね.
参考文献
1)日本リハビリテーション医学会診療ガイドライン委員会編:リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン.医歯薬出版.東京.2006
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