人工股関節全置換術のアプローチ~術式ごとの特徴を知れば理学療法も変わる~

人工股関節全置換術
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前回は人工股関節全置換術後の合併症の1つである脱臼に関して紹介させていただきました.

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脱臼の記事の中でもアプローチに関する話題に触れましたが,今回は人工股関節全置換術におけるアプローチの相違について考えてみたいと思います.

 

TOTAL HIP CARE 股関節チームで支える人工股関節全置換術 [ 中川法一 ]

 

目次

 人工股関節全置換術のアプローチ 

人工股関節全置換術のアプローチには前方アプローチ,側方(前外側)アプローチ,後方アプローチなどがあります.前方・側方アプローチは大腿近位の前外側を切開して股関節の前からアプローチする方法です.

一方で後方アプローチは殿部から大腿外側を切開して股関節の後ろからアプローチする方法です.

 人工股関節全置換術のアプローチ毎の特徴 

今回は前方・側方・後方といった3パターンのアプローチの特徴について,使用頻度・術中体位・皮切・筋切離・脱臼率・術後機能回復・術後動作制限・手術手技・汎用性といった幅広い視点から考えてみたいと思います.

 

 使用頻度 

本邦では2000年代前半までは後方アプローチによる人工股関節全置換術が主流でしたが,ここ数年で前方アプローチによる人工股関節全置換術の件数が急速に増加しており,2015年のデータでは前方が4割,後方が4割,側方が2割と前方アプローチの割合が後方アプローチの割合と比較しても変わらなくなってきております.

以前は人工股関節全置換術といえば一部の病院を除いては後方アプローチをイメージしておけばよかったのですが,現在は前方・後方の2つのアプローチの相違を良く知ったうえでリハビリテーション(理学療法)を行う必要があります.

 

 術中体位 

術中体位は前方の場合には仰臥位,側方・後方に関しては術側を上方にした側臥位姿勢となります.

ここで非常に重要なのは前方アプローチの場合には仰臥位で手術が施行できるといった点です.

最近,件数が増加している両側同時人工股関節全置換術に関しては仰臥位姿勢で手術が行われる前方アプローチでないと手術ができないのです(側臥位姿勢だと片側の手術を行った後に,手術を行った股関節を下にした側臥位を取る必要があり,物理的に困難なのです).

両側一期的に人工股関節全置換術が行われるようになったのも前方アプローチが普及したからだと考えることができます.

 

 皮切 

いずれも侵入方向から皮切が行われるわけですが一般的に皮切の大きさは,後方>側方>前方の順です.

以前はいかに皮切を小さくするかに主眼が置かれていた時代があったようですが,現在は皮切が多少大きくなったとしても術野をしっかりと確保して確実な手術を行うというのが流れになっているようです.

特に股関節に関しては外観上も他人の目にさらされることは少ないので数cm皮切が長くなったとしてもあまり問題が生じないようです.

 

 筋腱切離・術後機能回復 

筋・腱切離に関しては理学療法を行う上で非常に重要です.

前方アプローチの場合には筋間侵入により手術が行われますので,基本的には筋・腱には侵襲は無いと考えてよいと思います.

側方アプローチの場合には中殿筋に侵襲が加わります.

術式によっては術後早期には股関節外転筋群の過度な収縮を伴うエクササイズは禁忌となることが多いです.

後方アプローチに関しては大殿筋への侵襲に加えて,深層外旋六筋に侵襲が加わるといった点が重要です.

特に深層外旋六筋は股関節のstabilizerとしての役割を担っておりますので,深層外旋六筋の侵襲による股関節機能低下は大きいと考えられます.

術中に切離した深層外旋六筋は縫合が行われることが多いですが,どこまで機能的に再建できているかについては様々な議論があります(縫合してもあまり機能しないといった考え方をする医師も少なくありません).

したがって前方アプローチでは術後の機能回復は早いですが,後方アプローチにおいては術後の機能回復にも時間がかかります.人工股関節全置換術後のクリニカルパスでも,前方アプローチ施行例の退院時期が後方アプローチ施行例よりも1~2週短めに設定されていることが多いです.

 

 脱臼率・術後動作制限 

脱臼率は前回の記事でもご説明いたしましたが,後方>側方>前方の順で脱臼率が高くなります.

これは日常生活を考えた時に圧倒的に股関節屈曲を伴う動作が多いためであると考えられております.

一方で高齢者になるとそもそも股関節が0°以上伸展する機会が少ないため,前方アプローチでは脱臼の頻度が少ないものと考えられます.

 

 手術手技・汎用性 

一般的には手術手技は後方アプローチよりも前方アプローチで難易度が高いと考えられております.

また高位脱臼例など広い術野で手術を行う必要がある場合には,前方アプローチでは対応が困難な場合もあり,そういった場合には後方アプローチが適応となります.

つまり前方アプローチは重症例には適応とならず,汎用性といった面から考えると後方アプローチよりも劣ることになります.

今回は人工股関節全置換術例におけるアプローチについてご紹介いたしました.理学療法を行う上でもアプローチによる特徴を十分に把握しておきましょう.

 

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参考文献
1)神野哲也: 股関節のエビデンス10. 整形外科看護 20巻: 733-734, 2015

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