前回の記事では変形性股関節症例における脚長差の特徴についてご紹介いたしました.
構造的脚長差がある場合に,補高を用いて脚長差を補正するべきか,補正せずにおくべきかに関しては様々な議論があります.
今回は構造的脚長差に対する補高使用による脚長補正について考えてみたいと思います.
目次
補高を使用して脚長差を補正する場合の注意点
脚長差の代償として骨盤が罹患側傾斜している場合には,罹患側の股関節は外転位となっており,臼蓋被覆が増加した状態となっております.
一方で反対側の股関節に着目すると骨盤傾斜によって股関節は内転位となっており,臼蓋被覆が減少している状況となります.
実は補高を使用して脚長差を補正するということは臼蓋被覆を減少させていることになるのです.
したがって過度な補高は股関節を内転方向に誘導することになるため,臼蓋被覆が減少し,変形性股関節症の進行を助長してしまうことになりかねません.
もちろん骨盤傾斜が過大となると,Hip spine syndromeやCoxitis kneeの原因にもなりますので,こういった場合にはやむを得ず補高を行う場合もあります.
補高を行って方が良いかどうかというのは最終的には症例によるというのが答えだと思いますが,補高を行うことで罹患側・対側の臼蓋被覆がどう変わるのか,隣接関節への力学的負荷がどう変化するのかをしっかりと評価することが重要だと思います.
補高を使用した脚長補正は罹患側への力学的負荷を増加させるのか?
変形性股関節症によって脚長差が生じた場合に補高を行う前後で,歩行中の力学的負荷が増大するか否かを検討した報告があります.
この報告では変形性股関節症例12例(脚長差12-26mm)を対象に補高前後における歩行パラメーターを計測しております.
最終的には脚長差の補正によって,患側への荷重負荷を増加させることなく,歩行速度が向上したと結論付けられております.
この報告は関節モーメントの方向は考慮されておらず,量的な負荷のみの検討になっている点には注意が必要ですが,補高を挿入したからといって罹患側への力学的負荷が増大することはないようです.
また2018年には構造的脚長差に対する補高に関してSystematic Reviewが報告されております.
このReviewではLLDに対する補高使用に関する10論文(1編のRCTを含む)を対象に解析が行われておりますが,非無作為化比較試験の結果,349例中307例が補高使用によって部分的または完全に疼痛(腰痛・股関節痛・膝関節痛)が改善したと報告されております.
また1編の無作為化比較試験の結果(22例),150mm VASで平均27mmの疼痛軽減効果があったと報告されております.
このように論文上は適度な補高は力学的負荷および疼痛を軽減させる効果が明らかにされているわけですが,特に本邦では脚長差に対する補高に関しては否定的な考えをもたれている方が多いと思います.
3cm以内の脚長差に対する補高は不要?
なぜ本邦では3cm以内の脚長差に対する補高は不要といった考えを持つ理学療法士が多いのでしょうか?
個人的な考えですが,この大きな原因となっているのは理学療法士のバイブルとなっている基礎運動学における「3cm以内の脚長差では外観上に変化が無い」といった記述ではないかと思います.
確かに本邦におけるいくつかの研究で3cm以内の脚長差では静的アライメント・重心移動・腰椎側弯に影響を及ぼさないことが明らかにされているのですが,ここで重要なのは根拠となった論文の多くが,健常人を対象とし,模擬的に脚長差を作った研究であるといった点です.
元来,健常例というのは股関節・腰椎に十分な可動性があり,脚長差に対する代償運動が骨盤傾斜によって十分可能な対象なのです.
一方で疾病を有する症例を対象とした海外の報告では,3cm以内でも様々な影響があることが明らかにされております.
したがって股関節・腰椎の可動性が低下した変形性股関節症例においては,3cm以内の脚長差であっても様々な影響が出現することが分かります.
このように最近の報告を見る限り,構造的脚長差に対する補高の使用に関してはpositiveな報告が多く,補高使用により疼痛が増悪するといった研究報告は少ないのですが,対象者によってはアライメント変化に伴い疼痛が増悪または新たに出現する可能性もあると思いますので,補高を挿入したままということではなくて,補高挿入による疼痛・アライメントの変化を経時的に観察していくことが重要だと思います.
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参考文献
1)脇田正徳:変形性股関節症患者の脚長差に対する補高適用の有効性. 運動器リハビリテーション25: 56-62, 2014
2)Campbell TM, et al: Shoe Lifts for Leg Length Discrepancy in Adults With Common Painful Musculoskeletal Conditions: A Systematic Review of the Literature. Arch Phys Med Rehabil. 99: 981-993, 2018
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