前回は変形性股関節症例の疼痛の特徴について紹介させていただきました.今回は理学療法の対象となることの多い関節可動域について変形性股関節症例の特徴を考えてみたいと思います.なお関節可動域については臨床実習でも測定や測定後のアセスメントを求められることが多いので,確実に押さえておきたいところだと思います.
目次
どこの可動域制限から起こりやすいか?
変形性股関節症の病期が進行すると股関節の可動域制限が目立つようになります.最終的にはいずれの運動方向も可動域が制限されてしまうことが多いのですが,経過とともに障害されやすい運動方向が明らかにされております.
はじめに股関節屈曲方向の可動域制限が出現します.それから股関節外転・外旋方向の可動域制限が大きくなります.そのため変形性股関節症例においては股関節屈曲可動域と関連の強い動作が制限されることが多いのです.股関節伸展・内転方向の可動域については可動域制限が少ないことも明らかにされております.これはそもそも伸展可動域や内転可動域は日常生活動作における必要性が低いというのも一つの原因ですが,もう一つの原因は臼蓋被覆に関連するところが大きいのです.
以前の記事でもご紹介いたしましたが股関節は寛骨臼の形状から,前方そして外側の安定性が低いのが特徴的です.股関節は凹凸の法則でいうと凸の法則を適応することができますので,骨運動の方向と関節包内運動が逆になります.安定性が低いということは逆にいえば,不安定性が強くなっても前方そして外側方向への骨頭の移動は大きくは制限されない場合が多いということです.伸展時には骨頭は前方へ,内転時には骨頭は外側へ移動しますので,不安定性の強い伸展・内転方向の可動域は制限されない場合が多いのです.
上のグラフは変形性股関節症例が困難であると感じている日常生活動作の困難度を動作別に表したものです.靴下をはく動作,足趾の爪切り,和式トイレでの排泄動作といずれも股関節の深屈曲が必要な動作が制限されるのが特徴的です.
また股関節屈曲位における内旋方向の可動域が制限されやすいというのも,変形性股関節症例の可動域制限の特徴です.X線画像による重症度と股関節可動域との関連を検討した報告では股関節内旋可動域と重症度との関連が明らかにされております.
股関節内旋可動域が28°を下回ると重度の股関節症(関節裂隙1.5mm未満)が疑われることも明らかにされております.
伸展可動域運動・内転可動域運動は臼蓋被覆を低下させる
前述したように変形性股関節症例の可動域制限の特徴は屈曲可動域制限が大きいといった点です.一方で過度な股関節内転運動や股関節伸展運動は臼蓋被覆を減少させる原因にもなりますので,積極的な運動は控えておいた方が良いと考えられます.
今回は変形性股関節症例の可動域制限の特徴について考えてみました.関節可動域は実習等でも評価やアセスメントを求められることが多いので,可動域制限の特徴を把握しておくことが重要です.
参考文献
1)Junya Aizawa, Tetsuya Jinno, et al: Range of motion of the hip and lumbar spine as a factor affecting self-reported physical function in patients with hip osteoarthritis. Proceedings of the 5th world congress of the International Society of Physical and Rehabilitation Medicine: 1-2, 2009
2)Birrell F, Croft P, et al: Predicting radiographic hip osteoarthritis from range of movement. Rheumatology 40: 506-512, 2001
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