人工股関節全置換術(THA)・人工骨頭置換術ではアプローチ方法によって脱臼肢位や筋の侵襲の程度が異なるため,われわれ理学療法士・作業療法士にとっても術式の特徴について十分に把握しておく必要があります.
今回はここ数年報告が増えている,上方アプローチ(SuperPath)アプローチの特徴について考えてみたいと思います.今後,人工股関節全置換術・人工骨頭置換術のアプローチとして主流になる可能性もありますので,確実に押さえておきたいところです.
変形性股関節症に対する人工股関節置換術後の理学療法【理学療法 ME229-S 全2巻】
目次
従来のアプローチ
従来の人工股関節全置換術のアプローチには前方アプローチ,側方(前外側)アプローチ,後方アプローチなどがありました.
前方・側方アプローチは大腿近位の前外側を切開して股関節の前からアプローチする方法です.
一方で後方アプローチは殿部から大腿外側を切開して股関節の後ろからアプローチする方法です.本邦における2015年の調査によると,前方が4割,後方が4割,側方が2割となっており,以前に比較しても前方アプローチが増えてきていることがわかります.
上方アプローチの特徴
新しい上方アプローチ(SuperPATH® approach: The Supercapsular Percutaneously Assisted Total Hip approach)では従来の後方アプローチよりさらに後上方の大腿骨上方よりアプローチすることによって,大殿筋のみを切開し,中殿筋や外旋筋群を温存し関節包も切開のみで切除することなくアプローチできるため,術後疼痛が少なく,また術中操作で脱臼操作がないため術後の脱臼率も極めて低いといった利点があります.
一方でLearning curve が大きく,臼蓋側は直視下で確認できないため,操作が難しく,術中にX線やイメージ下での確認が望ましいとされております.
特にSuperPATH approachは高齢者の早期回復が期待でき,大腿骨の操作がメインである人工骨頭挿入術に適したapproachであると考えられておりますが,人工股関節全置換術に対して適応されることもあるようです.
脱臼リスクが少ない
代表的な後方アプローチでは一度股関節を脱臼させる必要があり,短外旋を切離するため,術後の脱臼が問題となります.
上方アプローチでは術中の脱臼操作が無く,短外旋筋群や関節包を温存できるため脱臼リスクが低いといった利点があります.
特に人工骨頭置換術が適応される大腿骨近位部骨折例は,認知症を合併している症例が多く,術後の脱臼肢位について理解が難しい症例も多いことを考えますと,このアプローチは非常に有用だと考えられます.
また術中に操作性が悪い場合には, 梨状筋・共同筋腱を順次切離することで最終的には後方アプローチへ移行できるといった点もこの術式の素晴らしいところだと思います.
仮に後方アプローチと同様に短外旋筋群を切離したとしても,上方アプローチでは脱臼肢位をとることなく,手術を行うことができ,さらに後方関節包は温存されますので,やはり脱臼リスクが少ない術式といえるでしょう.
加えて後方アプローチに慣れている医師にとっても,前方への術式に移行するよりも,後方から上方への移行の方が術式の変化が小さいので,今後後方から上方へとアプローチを変える整形外科医師が増えるのではないかと考えております.
筋への侵襲が少ない
上方アプローチでは側臥位にて股関節屈曲60~70°,内旋20~30°および下垂による内転位で,中殿筋と梨状筋の筋問から進入します.
梨状筋を含めて短外旋筋群を一切切離しない点が大きな利点になります.短外旋筋は股関節のstabilizerとして重要な筋群ですので,この筋群に侵襲が加えられないというのは術後の歩行獲得を考えても非常に大きいと思います.
実際に術後の筋の変性についてMRIを使用して評価を行った報告でも,上方アプローチでは短外旋筋の脂肪変性や筋萎縮が少ないといったことが明らかにされております.
前方アプローチと比較したらどうなの?
確かに後方アプローチに比べれば上方アプローチが侵襲も少なく脱臼リスクも低いことはご理解いただけたと思いますが,前方アプローチと比べたらどうなの?って思われる方も多いと思います.
DAAとかALSのような前方アプローチの場合,特に高齢者で骨盤が後傾しているような症例においては大腿筋膜張筋に侵襲が加えざるを得ないことが少なくありません.
理学療法士の中には大腿筋膜張筋というのは過活動や短縮を起こす要素が強く,出力は必要ないと考えている方もおられると思いますが,大きな誤りです.大腿筋膜張筋というのは大殿筋とともにPelvic Deltoidを形成し,外転筋の筋力発揮を補助する働きがありますので,大腿筋膜張筋の機能は歩行を考える上では必須となります.
上方アプローチは高齢者に多い骨盤が後傾している症例においても大腿筋膜張筋に侵襲が加えられることが少ないので,筋の侵襲という意味からすれば前方アプローチよりもさらに侵襲の少ない手術と考えられるでしょう.
加えて骨盤が後傾している高齢者に多い大腿骨頸部骨折に対する人工骨頭置換術には最適だと考えます.
極める変形性股関節症の理学療法 病気別評価とそのアプローチ (臨床思考を踏まえる理学療法プラクティス) [ 斉藤秀之 ]
今回はここ数年報告が増えている,上方アプローチ(SuperPath)アプローチの特徴について考えてみました.クライアントにとっても利点の多いアプローチですので,今後使用が増えることが予測されます.今からわれわれもこの術式について学習しておくと良さそうですね.
参考文献
1)城戸聡, 加茂健太: 上方アプローチによる人工大腿骨頭置換術後の股関節周囲筋MRI評価. 骨折40: 409-413, 2018
2)Chow J, et al: Modified micro-superior percutaneously assisted total hip: early experiences & case reports. Curr Rev Musculoskelet Med4: 146–50, 2011
3)Qurashi S, et al: SuperPATH Minimally Invasive Total Hip Arthroplasty -An Austrarian Experience. Joint Implant Surgery & Research-. Foundation 2: 2331-2270, 2016
4)神野哲也: 股関節のエビデンス10. 整形外科看護 20巻: 733-734, 2015
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